シナリオ前の準備編2「透明人間じゃ妄想できない!」 第35回ウォーターフェニックス的「ノベルゲームの作り方」
他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。
第35回「透明人間じゃ妄想できない!」
執筆者:イラスト・シナリオ担当 R
さて。前回はようやく物語が決まり、具体的な企画書が届きました。
早速、シナリオを書きはじめますよ!
……と、いう事にはなりません。
あくまでもこの記事は、ウォーターフェニックス流ノベルゲームの作り方、ですからね。
私の場合はイラストも兼任しているので、完全にシナリオにうつる前に、少しだけ絵を描きます。
その絵というのは……メインヒロインです!
◆なぜ、シナリオの前にキャラクターの姿を決めるのか?
◆そのキャラクターって、どんな設定?
◆姿を決めるために モチーフ編
◆姿を決めるために イメージカラー編
◆実際に描いてみよう
◆なぜ、シナリオの前にキャラクターの姿を決めるのか?
キャラクターの姿を決めておく理由。
それは、とても簡単、実際にシナリオを書くうえで、メインヒロインの容姿が決まっているのと決まっていないのとでは、大違いだからです。
想像してみてください。
よくある、「○○君、起きて」と幼馴染が主人公を起こしにくるシーンだとします。
その幼馴染が透明だとしても、可愛いと感じられるでしょうか? 少し、難しいですよね。
仮に可愛いと感じたとしても、それは言葉から想像した可愛らしさであって、限度があります。
しかしそこに姿がつくと、想像の幅が広がります。
黒髪ロングの大人しそうな女の子だとしたら、眉尻を下げて困ったように「起きて」と言っているかもしれません。
金髪でツインテールの女の子なら、少し拗ねた風に口をとがらせながら「起きて」と言っているかもしれません。
上半身裸の筋肉ムキムキな男キャラが、主人公の首を絞めながら「起きて」と言っているのかもしれません。
同じ「起きて」だけでも、姿が違うと大分印象が違いますよね。
そんな風に、想像する度にヒロインの顔が変わってしまったら、シナリオを書いていてキャラクターが揺らいでしまう可能性があります。
しかし最初にキャラクターの姿をある程度決める事で、シナリオを書く際に、ちょっとした仕草などがリアルに想像できるようになるのです。
では、そんなキャラクターの姿をどうやって決めるのか。私のやり方を書いていきます。
◆そのキャラクターって、どんな設定?
姿を考えるうえで重要なのは、やはり、そのキャラクターがどんなキャラクターなのかという事です。
おしとやかで上品という設定のキャラクターなのに、靴のかかとを踏んで釘バットをもっていたら「あれっ?」と思いますよね。
そういうギャップを狙っての事ならいいのですが、そうでない場合は、やはりキャラクターの設定に合わせた方が良いと感じます。
では例として、以前ボツになったキャラクター「天宮ひより」の設定を元に考えてみましょう。
・名前
天宮 ひより(てんきゅう ひより)
・性別
女
・年齢
不詳(一応小学校に通っている)
・外見的特徴
気分によって服の色が変わる。天気っぽい
・職業
妖精
・家族構成
家族はいない
・出身地
空の世界<天宮>
・性格
おしとやか、おっとり、一途、努力家。
・座右の銘
どんな時でも元気でいたい
・能力
周囲の天気を操る。泣くと雨が降り、笑うと晴れる。
・趣味
料理、読書
※元々、外で遊ぶのが好きだったが、自分が泣くと迷惑をかけるため、大人しくなってしまった。
・癖や口癖
「えっと」
「がっ、がんばります」(時々噛んで、ましゅ になる)
「失敗してしまいました。ごめんなさいっ」
「かっ、空元気っ!」 で頑張るという意味。
「~し<てる>の?」
「まってる~」
・語尾
「~だてる」
「~てる」
「てるてる~~~っ!?」(驚き)
「てるてるっ!」(喜び)
・長所
前向きで、苦手な事でも頑張る。
・短所
常に頑張って本気で取り組むが、それが重荷になってしまう事も多い。自分ひとりで抱えて苦しんでしまう。
・自分自身の中で気に入っているところ
ひよりという名前
頑張り屋であるところ
・自分自身の中で気に入らないところ
自分の口癖。直そうとしても、直せない。
・好きな食べ物
アメ
・嫌いな食べ物
辛い物、苦いもの
※本当はもう少し設定があるのですが、そこは姿を考えるうえでヒントになりそうにない部分だったので割愛します。
こういった設定の中から、特に外見に影響を与えそうなものに注目します。
まず、外見的特徴。気分によって服の色が変わる。天気っぽい。
これはそのまま参考になりますね。
次に、出身地。空の世界という事は、完全に現代的ではなく、ファンタジー要素が混じっても良い服装になります。
性格。おしとやかでおっとりという事は、目は普通か、少し垂れていると良さそうです。
年齢は不詳ですが、小学校に通っているので幼い姿なのでしょう。
職業が妖精というところもポイントですね。羽が生えていても良いのかもしれない、と考える事ができます。
こうして、ぼんやりと浮かんだ要素をメモしながら次の段階に進みます。
◆モチーフを決めよう
メモ帳を横に置いて、今度はそのキャラクターに合ったモチーフを決めます。
モチーフ、などという言葉を使うとわかりにくいですが、ようするにそのキャラクターの印象に近いものを、探すわけです。
あ、このキャラはライオンっぽいな、とか。
このキャラは星っぽい、とか。
チューリップもいいなぁ、とか。
物でも動物でも植物でも図形でも。好きなものを、自由に想像します。
そうして思い浮かべたものの中から、特にキャラクターにあっているものを1個か2個選んで、メモしておきましょう。
上記の「天宮ひより」の場合は、やはり天気を操るという設定が印象的だったので、「空」と「てるてる坊主」をモチーフにする事にしました。
こうしてモチーフを決めておくと、様々な場面で役立ちます。
服の装飾品に悩んだ時に「星っぽいから、星型の飾りをつけてみよう」とか。
そのキャラクターが浮かべる表情を考える時に、「ライオンっぽいから、雄々しさを感じる表情にしてみよう」とか。
意外な発想に繋がる事もあるので、なかなか面白いものです。
◆イメージカラーを決めよう
次はモチーフと同様に、そのキャラクターに合うと感じる色を1つか2つ選びます。
ここで決めたイメージカラーは、そのまま、キャラクターの服装や髪の色、目の色に当てはめる事が多いです。
なぜ、描きはじめる前に色まで決めてしまうのか?
それは、色が与える印象はとても強いからです。
ぐるりと周りを見回してみましょう。様々な色があふれていると思います。
赤、青、緑、黄色……それぞれを注視していると、これは親しみやすいとか、これは爽やかな感じらするとか、そういう風に思うのではないでしょうか。
色は、そこにあるだけで存在を主張しているのです。
わかりやすいのは、ジュースの類だと思います。
ジュースのパッケージは、ぶどうジュースなら紫。りんごジュースなら赤。といった風に、元の果物の色に合わせているものが多いです。果物の写真と共に、一目見て何のジュースなのかわかるようになっています。
たとえば、中身がオレンジジュースなのにパッケージが紫だったらどうでしょう。
ぶどうジュースと間違えて手にとって、「想像していたものと違う!」と感じてしまうかもしれません。
それと同じ事が、キャラクターに関しても言えると思います。
そのキャラクターの髪、目、服の色などから、「こんな性格のキャラクターかな」と想像することって、ありますよね。
特にそれが顕著なのは、戦隊ものでしょうか。
赤は熱血で情熱的なリーダー、青は知性的で冷静、など。ある程度印象が決まっていますよね。(色彩関係の本を読むと、詳しく書いてあって面白いです)
全部が全部当てはまるとはいいませんし、絶対に性格と色を合わせる必要はありません。
しかし、色が影響力をもっているのは事実なので、そのキャラクターを見た人にどんな印象を受けてもらいたいのかを意識して決めます。
「天宮ひより」の場合では、晴れた日のようなからっとした爽やかさと、純真さを感じてもらいたいと思ったので、水色と白をイメージカラーにしました。
◆実際に描いてみよう
さて。メモしたものを元にして、実際に描いてみましょう。
ここは、とにかく色々試して描いてみるしかありません。
私の場合だと、まず髪の毛がない状態の頭部をいくつか描いて、顔を決める事が多いです。
そうしたら、次に髪型をかぶせて描きます。モンタージュのようなものですね。
こういうところは、デジタルで描いているととても便利です。
この段階までくると、企画担当のケイ茶に見せて意見をききます。
この髪型は? この顔でいい? 服装は? などなど。
前回の記事で私がボツを出した分、ここではケイ茶が容赦なく意見してきますから、それを参考にして描き直します。
そうして完成した「天宮ひより」の姿が、こちらです。
このようにしたできた絵を横におきながら、物語について考える方へと戻っていきます。