シナリオ編<オマケ8>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<4>」 第112回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた
第112回 シナリオ編<オマケ8>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<4>」
執筆者:企画担当 ケイ茶
他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。
ケイ茶です。
前回の続きです。
「魔王&勇者モノ<4>」
;▲★ヒロイン視点
@ヒロイン
「よし、Lvアップ。一区切りついたからセーブ、っと」
遊んでいたゲームを脇に置いて、パソコンの画面を見る。
@ヒロイン
「うーん。ないなぁ……」
もう一度街に行くと言ってから、自称魔王のコメントは途絶えた。
それが、1時間ほど前の事。
あれだけしつこかっただけに、こんな風に消えてしまうのは拍子抜けだ。つまらない。
それとも、画面の前で寝てしまったんだろうか。
@ヒロイン
「……もっと、からかいたかったんだけどなぁ」
溜め息を吐きながら、ボクは床に寝転がる。
その時、画面上に新着コメントの文字が点滅した。
@ヒロイン
「あ、きた。おかえり魔王様」
@魔王主人公
『多少時間はかかったが、我は情報を手にいれた』
@魔王主人公
『伝説の武器は、宵闇の洞窟と呼ばれる場所の最深部に眠っているらしい』
@ヒロイン
「……なるほど。街に出向いていた雰囲気を出すために、わざと空白の30分をつくったのか」
やっぱり、この自称魔王は雰囲気作りを頑張っているらしい。
ただ、30分で必要な情報を集めてきた、というところは相変わらず詰めが甘い。
せめて1日。どうせなら、1週間ぐらい空けた方が、それらしくなったはずなのに。
まぁ、そんなところがまた面白いのだけど。
@勇者ヒロイン
『洞窟の最深部か……。簡単そうだな。取りに行ってこいよ』
最強武器を手に入れるには、ちょっとしたミ ニゲームをクリアしなければならないものや、他のアイテムを集めてから、というものなどがある。
それに比べると、ダンジョンの奥に眠っているだけなら簡単な方に入るだろう。
Lvの低い冒険者ならともかく、この相手は魔王という設定なんだから。
@魔王主人公
『我は、洞窟に行った。だが……』
@勇者ヒロイン
『だが?』
@魔王主人公
『魔物が武器を守っていた』
@勇者ヒロイン
『それがどうしたんだよ。お前、魔王だろ。魔物を従えてるんじゃないのか?』
@魔王主人公
『魔物すべてが我に従っているわけではない。反抗的な態度をとるものもいる』
@ヒロイン
「へぇ……。まぁ、そういう設定もアリかな」
たしかに、すべての魔物が 従っているよりも、魔王でも手に負えない魔物がいるという方がワクワクする。
これに関しては、なかなかいい設定だ。ボク好み。
@勇者ヒロイン
『その魔物、お前より強いのか?』
@魔王主人公
『否。我より強い魔物など存在せぬ』
@勇者ヒロイン
『……なーんだ。それなら、そんな魔物は殺せばいいだろ。サクッと』
@魔王主人公
『貴様、なんとおぞましい事を言うのだ!』
@魔王主人公
『我が魔物を殺すなど、ありえぬ!』
@勇者ヒロイン
『え? 邪魔な魔物を退治するのって、基本だろ』
@魔王主人公
『血も涙もない勇者め! ……貴様のような冷酷な存在と、魔王を一緒にするな』
@ヒロイン
「えぇー……。こっちが悪者にされ ちゃったよ」
だって、魔物だろ? 従わないんだろ? それでいて、欲しい武器の周囲をうろついているんだろ?
だったら、そんな魔物は殺すべきだ。邪魔なんだから。
それなのに……。
@魔王主人公
『我は、魔物は殺さぬ』
@勇者ヒロイン
『あー、わかった。じゃあ、手加減して瀕死ぐらいでとどめたらどうだ』
@魔王主人公
『傷つける事もせぬ』
@魔王主人公
『あのような可愛い魔物を殺すぐらいならば、伝説の武器などいらぬ』
@ヒロイン
「なにこの、博愛精神に満ちた魔王……」
思わず、ため息が漏れる。
たしかに、敵モンスターの中には可愛い外見をしているものもいる。
でも、ボクはそんな事で躊躇しない。可愛いなぁとつ ぶやきながら、倒す。
そういうものじゃないか。
@勇者ヒロイン
『伝説の武器を手に入れれば、強くなるんだぞ』
@魔王主人公
『それがどうした』
@魔王主人公
『力を得るからといって、犠牲を許容する理由にはならぬ』
@勇者ヒロイン
『……でも、そこらへんの勇者に伝説の武器を手に入れられたら、困るだろ?』
@魔王主人公
『勇者など、武器の事を知る間も与えず殺してみせるわ』
@勇者ヒロイン
『……武器を手に入れる事は、お前がボクの世界に来るための第一歩なんだぞ!』
@魔王主人公
『道を踏み外した一歩などいらぬ』
@魔王主人公
『魔物を殺さねばならぬというのなら、この話は終わりだ』
@ヒロイン
「ああぁ。 だめだめ、そんなの!」
なんで、この事に関しては頑固なんだろう。
そんなに、魔物大好き魔王という設定が気に入っているのか。どんな趣味だ。
@ヒロイン
「まだからかい足りないんだから、逃がさない!」
@勇者ヒロイン
『わかった。じゃあ別の方法をとろう、魔王主人公』
@勇者ヒロイン
『魔物を殺さず、傷つけず……そう。状態異常を引き起こす魔法を使えばいい』
@魔王主人公
『それはなんだ?』
@勇者ヒロイン
『眠らせるとか、混乱させるとか、石化させるとか。そんな魔法だ。よくあるだろ?』
@魔王主人公
『ふむ。……かつて、そんな魔法を習得している魔王もいたな』
@勇者ヒロイン
『その口ぶりだと……お前は、その魔法 を使えないのか?』
@魔王主人公
『使えぬ』
@魔王主人公
『我が修得せしは、転移魔法をのぞけばすべて攻撃に通ずるもののみだ』
@ヒロイン
「はいはい。強くてすごいだろって言いたいんだな。いるいる、そういう人」
補助系の魔法を軽視して、とりあえず強いダメージを与えられるものだけ覚えておけばいいや、と考えているんだろう。
たしかに、強力な魔法で敵を粉砕するのは気持ちが良いけれど、それだけじゃ芸がない。
強力な魔法の効果を上げるために、その他の魔法だって大事だ。
@勇者ヒロイン
『状態異常を引き起こす魔法は、絶対に覚えた方がいい。そうすれば戦略が広がる』
@魔王主人公
『そのような魔法は、どうやって修得するのだ ?』
@ヒロイン
「うーん。そうだなぁ……」
レベルアップをすれば自然に覚えていくゲームもあるけれど、この様子だとそれではないらしい。
さすがに、状態異常系統の魔法は覚えられない、なんて設定にもしていないはずだ。魔王なんだから。
という事は、多分……その他の魔法は買うものなんだろう。
@勇者ヒロイン
『魔法屋だ。いや、名前がそうとは限らないが、とにかく魔法を覚える場所があるはずだ』
@魔王主人公
『魔法を覚える場所……。それは、人間の街か?』
@勇者ヒロイン
『たぶん、そうだな』
@魔王主人公
『わかった。探してみる事としよう』
@ヒロイン
「はーい。行ってらっしゃい」
;▲★主人公視点
@人間
「いらっしゃい!」
我は、魔法屋と書かれた家屋の中に入った、
相変わらず勇者を名乗らなければならない事は腹立たしいが、それが便利な事は事実だ。
様々な街を歩き回った事もあり、こうして歩く事にも慣れてきたといえるだろう。
@人間
「アンタが噂の勇者様だね。久しぶりに店に客がきて嬉しいよ」
@主人公
「そうか」
我はうなずき、視線をめぐらせる。
見たところ、魔力の封じ込められた本が置いてあるようだ。
あれに、魔法の使い方が記されているという事だろう。
@主人公
「ここには魔物を眠らせる魔法があると聞いたのだが、どれだ?」
@人間
「ああ、ドルミール(寝る)の事だね。それならこれだよ」
@主人公
「ふむ。これが例のものか……」
人間が指差したのは、ひとつの書物だ。
我は早速それを掴み、城に戻ーー
@人間
「ちょっと待った」
ーー戻ろうとしたのだが、できない。なんだこれは。
なぜ、我の手が人間に鷲掴みにされているのだ。勇者の罠か。
@主人公
「……貴様、何のつもりだ」
@人間
「それはこっちのセリフだよ。アンタ、金も払わずどこ行くつもりだい」
@主人公
「金……?」
@人間
「そうだよ。ドルミールの書の代金は5000ゼネー。しっかり払いな」
@主人公
「5000ゼネー、払う……」
そういえば、かつて他の魔王から聞いた事がある。
たしか、人間は物を得る時に何かと交換するのだ。
それが、お金とかいうもの、らしい。
つまり、今の我はそれを要求されているという事か。
@主人公
「貴様、我が何者かわかっておらぬのか?」
@主人公
「我は、まお……否、勇者だぞ」
@人間
「あぁわかってるよ。でもそれがどうしたんだい」
@主人公
「勇者に物を要求するというのか」
@人間
「勇者だろうとなんだろうと、金は払ってもらう。払えないなら、それを渡すわけにはいかない」
@主人公
「なんという事だ……」
勇者ならば、何をしても許されるのではなかったのか。
@主人公
「貴様は、勇者に協力する気はないのか?」
@人間
「してるよ、協力。だから魔法を売ってるんじゃないか」
@主人公
「ならば……」
@人間
「タダで寄越せ、ってのはきけないねぇ。協力ってのは、互いに力を貸すもんだろう? 援助じゃあない」
@人間
「私は魔法を渡す。だから、アンタはお金を渡す。何か変なこと言ってるかい?」
@主人公
「否。……道理だ」
魔王会議でも、これと似たような事はあった。
情報がほしければ、こちらも有益な情報を渡す。そんな取り引きが成立していたからこそ、我らは魔王同士として対等で接する事ができた。
この場合も、情報が物品にかわっただけだ。人間の言う事は理解できる。
@人間
「さぁ、どうなんだい?」
@人間
「金をもっているのか、いないのか。ハッキリしてくれないと困るよ」
@主人公
「……持っておらぬ」
@人間
「そうかい。じゃあ、これは渡せないね。金ためて出直してきな」
@主人公
「……ああ」