シナリオ編<オマケ13>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<9>」 第117回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた
第117回 シナリオ編<オマケ13>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<9>」
執筆者:企画担当 ケイ茶
他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。
ケイ茶です。
前回の続きです。
「魔王&勇者モノ<9>」
⇒途中まで修正バージョン&その後の展開が変更バージョンです。※一部被っている部分がありますので、完全に前回の続きではありません。
;▲★主人公視点
@主人公
「……勇者とは、皆、こういうものなのか?」
我は、鏡をつつく。
その中に映し出された勇者は、目を閉じたまま動きを見せぬ。
死んだようにも見えるが、このつながりが消えぬという事は、まだ勇者は生きているのだろう。
@主人公
「シュピラーレ・エクリ」
@魔王主人公
『応えよ、勇者』
@魔王主人公
『勇者よ。応えよ。……勇者ならば、我が恐ろしいだろう? 憎いだろう?』
@魔王主人公
『眠っていて良いのか? その間に、殺されるかもしれんのだぞ?』
石版に文字を刻んでみるが、勇者が気付く様子はない。
やはり眠っているのか。
@主人公
「我の前で呑気に惰眠をむさ ぼる とは、なめられたものだ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
何度か声をかけてもみたが、まるで起きる気配がない。
まだ、声が届かぬ状態なのかもしれない。
@主人公
「いずれにせよ、我には勇者を起こせぬ、という事か」
殺すどころか目覚めさせる事さえできぬとは、なんと無力な魔王だろうか。
苦笑をにじませつつ、我はもういちど鏡をつついた。
;▲◆時間経過
我は新たに現れた勇者を屠り、自室へと戻った。
@主人公
「勇者の様子はどうだ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃー……」
否定を示す魔物にうながされて鏡を見ると、たしかに勇者は目をつぶったままだった。
まるで変わっているような様子はない。
@主人公
「……寝汚い勇者め 」
丸3日以上眠るとは、なんと怠惰な事か。
睡眠を必要としない我は言うまでもなく、魔物とて、ここまで眠るものは少ない。
@主人公
「相変わらず、間抜け顔だ」
鼻で笑い、我はまた、鏡にうつる勇者を眺める。
;▲◆時間経過
@主人公
「……勇者はまだ起きぬのか?」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ」
@主人公
「ふむ……」
あれから、すでに14日が過ぎた。
さすがにこれほどまでに眠っている姿を見せられては、ただ睡眠時間が多いだけとは言えぬ。
@主人公
「我らの世界と比べて、この勇者がいる世界は時の流れが遅いようだな」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ?」
@主人公
「あちらでの1秒が、こちらでは10秒……否。数分や 、数十分なのかもしれぬ、という事だ」
そう考えれば、現状だけでなく、これまでの事にも納得がいく。
思えば、石版の勇者が返事をするまでの期間は妙に長かった。我は何度も待たされた。
十数日待たされた事もあった。……この、我が。
かといって勇者の方は意図的に返事を遅らせていた素振りはなく、まるで連続して会話をしているかのような話し方だった。
それらもすべて、時の流れが違うからこそだったのだろう。
そのせいで、我は今も勇者の寝顔などを見続けなければならなくなっているのだ。
@主人公
「……相変わらず、忌々しい勇者め」
なぜ、こちらの世界の方が早く時間が過ぎるのだ。逆であれば、我が勇者を待たせる事ができたというのに。
< br>これでは、魔力を上げる方法がわからぬ。勇者を殺せぬではないか。
;▲◆時間経過
@主人公
「……まだ起きぬのか」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ……」
我ながら、馬鹿馬鹿しいとは思う。
毎日毎日、こんな小娘の寝顔を確認するために足を運ばなければならぬとは、いくつ溜息を吐いても足りぬ。
だが、いちど目にしてしまった勇者をなかった事にもできず、鏡は室内に置かれたままだ。
;▲◆時間経過
@主人公
「魔物よ、様子は――」
@魔物Lv5
「ぴ! ぴぎゃ! ぴぎゃ!」
@主人公
「なんだ。何か変化があったのか」
@魔物Lv5
「ぴぎゃっ!」
我は鏡に向かって、足早に近づく。
そうして覗き込むようにして見ると、
@主人公
「……ようやく目覚めたのか」
勇者は起き上がり、石版に顔を向けていた。
どうやら、何かをしているようだが……動きが遅すぎて、よくわからぬ。
手元の何かを叩いている、といったところだろうか。
@主人公
「……む」
そうして眺めていると、石版に新たな文字が刻まれる。
@勇者ヒロイン
『ボクは、魔王に対して恐怖も憎しみも感じない。だから、好きなように寝る』
@主人公
「ふむ。あれは、魔力を操るための動作だったのだな」
@主人公
「しかしこの勇者は、突然何を言っているのだ?」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
我が小首をかしげると、魔物が別の文字を尾で示す。
@魔王主人公
『勇者ならば、我が恐ろ し いだろう? 憎いだろう?』
@主人公
「……なるほど。そういえば、そんな事も書いたか」
まったく。調子が狂う。
@主人公
「今更そんな事、どうでもよいわ」
5ヶ月ごしの返事とは、なんと遅い事だろう。
;▲★ヒロイン視点
ボクはアクビをしながら、周囲の音に耳をすませる。
@ヒロイン
「……なんだ、この音」
どこからか、変な音がする。
呪文……ノイズ……いや。これは、音声を超倍速で聞いた時のものに似ている。
音がどこから聞こえているのかはよくわからない。でも、方向的に考えて隣の家からだろう。これは気にしなくてよさそうだ。
家の中に鍵ttえ言えば、足音無し。テレビの音もしない。そっと窓の外をうかがってみると、 車がなかった。
この様子からすると、両親は出かけているらしい。ほっと息を吐き、改めて時計を見る。
@ヒロイン
「えーっと……今日の睡眠時間は約10時間ってところか」
いつもは15時間ほど寝ている事から考えると、ずいぶんと早起きだ。
それは多分、昨夜、興奮しすぎたからだろう。
殺してもらえるかもしれない。そう思うと、寝起きの今でも心が踊る。
@ヒロイン
「さて。ボクを殺してくれる魔王さんは、っと……あ。いるいる」
画面を覗き込むと、また何件か新着コメントが来ていた。全部、自称魔王からだ。
とりあえず、目についたコメントに適当に返事をしておこう。
@勇者ヒロイン
『ボクは、魔王に対して恐怖も憎しみも感じない。 だから、好きなように寝る』
@魔王主人公
『返事が遅い』
@ヒロイン
「わっ。相変わらず早いなぁ」
@ヒロイン
「『これぐらい普通です』っと……」
普通どころか、むしろボクの返事は早いほうだと思う。
コメントに対して、当日中に返しているんだから誠実な方だ。
そりゃあ、この自称魔王がほぼ1秒で返事をしてくるのは凄いと思うけれど、ボクにまでそれを要求されたらたまらない。
@勇者ヒロイン
『それより、今日も魔力を上げるための行動をとるんだろ?』
さて、問題はこれだ。
一番手っ取り早そうな、装備の変更はもう済ませてしまった。
伝説の武器というくらいだから、これ以上性能の高いものはないだろう。
ということは 、も っと別の方法で魔力を上げる必要があるわけだけど……。
@勇者ヒロイン
『そもそも、これまではどうやって魔力が高まっていったんだ?』
無意識のうちにでも特殊能力が強くなったということは、何かがあったという事にしないとつじつまがあわない。
そのあたりの設定は、ちゃんと考えてあるんだろうか。
気になって、画面をじっと見つめる。
@魔王主人公
『ふむ……』
@魔王主人公
『……我が魔力は、魔物とも連動しているのかもしれぬ』
@勇者ヒロイン
『魔物と連動? 魔物のもつ魔力も、お前の力になるという事か?』
@魔王主人公
『そうだ』
@魔王主人公
『魔物の数が増えた時。または、魔物の強さが上がった時。少しずつではある が、力が強まっているように感じる』
@ヒロイン
「なるほど、今度はそういう設定にしたのか」
たしかに、それなら自然に魔力が高まっていた事にも説明がつく。
魔王は何もしていなかったけど、魔物がいろいろと頑張ってくれたおかげで、強くなっていたというわけだ。
少しずるい気もするけれど、それが魔王っぽいといえばそうなのかもしれない。
……なんだ。意外としっかり考えているところもあるんじゃないか。
@勇者ヒロイン
『それなら話は簡単だな。魔物を強くしよう。鍛え上げるんだ』
@魔王主人公
『……それは具体的に、どのようにするのだ』
@勇者ヒロイン
『そりゃあもちろん、殺し合いさ』
@勇者ヒロイン
『それなりの数の魔 物を一箇所に集めて、最後の1匹になるまで戦わせる』
これは、蠱毒と呼ばれる方法だ。
様々な毒虫を一箇所に集めておくと、自然に最後に残った1匹は強い毒をもつようになる。
魔物でも、似たような効果を得る事ができるだろう。
@勇者ヒロイン
『魔物が減ることで多少の魔力は減るかもしれないが、代わりに強力な1匹の魔物が生まれる事になるから、多分相対的 に見てプラスになるだろう』
@勇者ヒロイン
『それを繰り返せば、お前の魔力も高まるうえに、強い魔物軍団ができあがる。良い案だろ』
多くの魔物の犠牲の上に成り立った、最強の魔王軍。想像すると、ぞくぞくする。とてもいい。
そして、そんな強い魔物を勇者が倒す。うん。最高だ。
@魔王主人公
『……貴様は、なんと残酷な事を思いつくのだ』
@魔王主人公
『魔物同士で殺し合いをさせるなど、ありえぬ!』
@ヒロイン
「あー……忘れてた」
寝たせいで、うっかり頭から消し飛んでた。
そうだそうだ。この魔王、魔物大好きって設定なんだった。面倒くさい。
その設定、あんまり引きずらなくてもいいのに。
@勇者ヒロイン
『わかっ た。それなら殺し合いはやめよう。あくまでも訓練。殺す一歩 手前でやめる、って事にしよう』
本当は、きっちりトドメを刺した方がそれっぽいとは思うけれど。
闘技場でも経験値が入るゲームがあるんだから、瀕死状態にするだけでも良いだろう。多分。
@魔王主人公
『それでも、魔物が痛みを感じる事に変わりはないではないか』
@ヒロイン
「そう言われてもなぁ……」
@勇者ヒロイン
『訓練なんだから、多少の痛みは仕方ないだろ』
@魔王主人公
『魔物には、微かな痛みも感じさせぬ!』
@ヒロイン
「これはもう、甘いというか……過保護……」
@勇者ヒロイン
『グダグダ言っていないで、とりあえず戦わせてみろよ』
@勇者ヒロイン
『魔物が強くなれば、勇者に負ける可能性も減るんだぞ』
@勇 者ヒロイン
『自衛するという意味でも、魔物は鍛えておくべきだ』
@魔王主人公
『く……』
@勇者ヒロイン
『お前の嫌いな勇者と、魔物がうっかり会う可能性はゼロじゃないだろ』
@勇者ヒロイン
『そんな時、弱い魔物だと良いカモだろうな。あっさり、殺されるだろうな』
@勇者ヒロイン
『本当に、それでいいのか?』
@魔王主人公
『……わかった。検討しよう』
;▲★主人公視点
@主人公
「… …魔物よ。我はどうすればいいのだ」
@主人公
「我が異界に行くためには、魔物を鍛えねばならぬという。魔物に、辛い思いをさせねばならぬのだ」
@主人公
「魔物どうしを戦わせる。そんな、野蛮で酷い命令など、我には……」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ! ぴぎゃ!」
@主人公
「お前は……まさか、やるというのか?」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
@主人公
「同族で戦うのだぞ?」
@魔物Lv5
「ぴ!」
@主人公
「……わかった。ならば、我は訓練場を用意しよう」
@主人公
「お前は、この事を城内の魔物に伝えよ」
@主人公
「強制ではない。参加する意思のあるものだけ、我がもとに集めよ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」;▲ 訓練場
@主人公
「……よくぞ、集まってくれた」
@主人公
「皆すでに理解しているだろうが、これは模擬戦だ。大怪我はせぬよう、じゅうぶんに注意して行え」
@主人公
「では、これより始める。各々、レベル差の少ない魔物とペアを組むように」
@魔物たち
「ぴぎゃー!」
@主人公
「……戦闘開始だ」
;◆戦闘
魔物Lv6があらわれた!
魔物Lv7があらわれた!
魔物Lv6は様子をうかがっている。
魔物Lv7は魔物Lv6を睨みつけている。
主人公は片隅で見守っている。
魔物Lv6の攻撃!
魔物Lv7に、10のダメージ!
魔物Lv6「ぴ、ぎゃ……」
主人公「あ、ああああああぁ!」
主人公は 混乱した。
主人公「なんという事だ……。我が魔物たちが、争わねばならぬとは……」
魔物Lv6の攻撃!
魔物Lv7に7のダメージ!
主人公「ぐ、うぅぅ……」
主人公は胸をおさえている!
主人公「く……。これ以上は、見ておれぬ」
主人公は逃げ出した!
◆
魔物Lv54があらわれた!
魔物Lv57があらわれた!
魔物Lv57は、??を唱えた!
魔物Lv54に氷の刃が向かう!
主人公「ならぬ!」
主人公のアビリティ挑発が発動!
氷の刃は、主人公に向かった!
氷の刃は砕け散った!
主人公「この程度、我にきかぬわ」
魔物Lv57「ぴぎゃー……」
魔物Lv57は主人公を睨んでいる!
魔物Lv54は主人公を睨 んでいる!
主人公はおののいている!
主人公「……すまぬ」
主人公は逃げ出した!
◆
魔物Lv100があらわれた!
魔物Lv99があらわれた!
主人公「……これは、訓練なのだ。我が手出ししてはならぬ……」
主人公は呪文を唱えている!
魔物Lv100の攻撃!
魔物Lv99に350のダメージ!
主人公「手出ししてはならぬ……」
主人公は我慢している!
魔物Lv100は火をはいた!
魔物Lv99に980のダメージ!
魔物Lv99「グ、ギャアァ……」
主人公「ぐ、ああああァァァッ!」
主人公は自らの頭をたたいた!
主人公に、100のダメージ!
主人公「く……我の痛みなど、この程度か……」
主人公「ならぬ。このよう な惨い命を出した我は、もっと苦しまねば……!」
主人公は頭をたたき続けている!
魔物Lv100「グ、ウゥ……?」
魔物Lv100は戸惑っている!
魔物Lv99はおののいている!
魔物Lv5「ぴぎゃー!」
主人公は魔物Lv5に連れて行かれた!
;▲★ヒロイン視点
ボクは弁当箱の蓋を開けながら、片手でキーボードを打つ。
@勇者ヒロイン
『……それで、お前は訓練場から追い出されたわけか』
魔王が語った訓練は散々なものだった。
いや、聞けたのは訓練というよりも、過保護魔王の心配性日記といった方がいいかもしれない。
この魔王の魔物溺愛ぶりに慣れてきてしまった自分が、少し悲しい。
@魔王主人公
『追い出されたわけではない 。その後、我は改めて足を運び、訓練を見守った』
@勇者ヒロイン
『だが、今のお前はボクと話しているよな。また追い出されたって事なんじゃないのか』
@魔王主人公
『否。これは休憩だ。訓練を監督する我にも休息が必要だと、魔物たちが騒ぐのでな』
@ヒロイン
「……ふーん」
やっぱり、追い出されているんじゃないか。
呆れつつ、カボチャの煮物を食べる。
あ、これ美味しい。
@勇者ヒロイン
『監督する立場といっても、お前はそばで騒いでいるか、邪魔しているだけなんだろ』
@魔王主人公
『何を言う。我には、強大な力があるのだぞ』
@勇者ヒロイン
『……じゃあ、お前も模擬戦に参加しているって事なのか?』
この、過保護さで? 戦えるのか?
@魔王主人公
『否。我は癒しの魔法を唱えるのだ』
@勇者ヒロイン
『い、癒し? ……魔物を回復してる、って事か?』
@魔王主人公
『そうだ。以前、癒しの魔法も買ったのは正確だった。よもや、こんなところで多用する事になるとはな』
@魔王主人公
『癒しを求めて我が前に立ち並ぶ魔物たちこそ、我にとって最大の癒しだ』
@勇者ヒロイン
『それは……。良かったな……』
@ヒロイン
「ひたすら回復魔法唱え続ける魔王って……」
それのどこが、監督役なんだろう。
その役目って、どちらかというとマネージャーじゃないか。
……だめだ。ミニスカート履いて応援する魔王しかイメージできなくなった。
@ヒロイン
「いやいや、ない。そんなのダメだ!」
嫌な想像を流し込むように、ボクは炭酸飲料をがぶ飲みする。
@魔王主 人公
『たとえ冷酷な貴様も、魔物たちのあのような姿を見れば平静ではいられぬはずだ』
@勇者ヒロイン
『訓練は、そんなに凄いのか?』
@魔王主人公
『……魔物たちは、痛みに耐えながら戦いの訓練に明け暮れているのだ』
@魔王主人公
『泥や血にまみれ、時に意識を失い、地に倒れ伏しても尚、すぐに訓練を続ける』
@魔王主人公
『それだけでも見ておれぬというのに、それらはすべて、我の魔力を上げるためにやっている事なのだぞ』
@魔王主人公
『到底、落ち着いてなどおれぬ!』
@魔王主人公
『手助けしたくなるではないか!』
@ヒロイン
「ああ、ハイハイ。健気健気。可愛い可愛い」
ダメだこれ。手助けとか言ってるけど、これは手遅れだ。
過保護魔王からクラスチェンジだ。これはもう、親バカ魔王決定だ。
カメラ片手に我が子の運動会を応援する親と、なんら変わりがない。
@魔王主人公
『……しかし、我は気付いてしまった』
@魔王主人公
『訓練だからという事以外にも、手助けできぬ理由がある』
@勇者ヒロイン
『それは?』
@魔王主人公
『我は、どちらに味方すればよいのかわからぬのだ』
@勇者ヒロイン
『……えーっと?』
@魔王主人公
『魔物と魔物が戦っている。ならば、どちらも我が庇護の対象だ。一方を贔屓するわけにはいかぬ』
@勇者ヒロイン
『ああ……。うん。そうか。まぁ、そうだな。大変だな』
@魔王主人公
『否。大変などという軽い言葉で流されるものでは ない』
@魔王主人公
『これは更に身を引き裂かれるような苦悩がつきまとい、』
あ、だめだこれ。なんか長い話が続きそうだ。
そう察知したボクは、慌ててキーボードを叩く。
@勇者ヒロイン
『ああ、そうだ!』
@魔王主人公
『なんだ』
@勇者ヒロイン
『魔物魔物と繰り返されるとややこしいんだが、それぞれの魔物に名前はないのか?』
@魔王主人公
『魔物は魔物だ』
@魔王主人公
『何やら、人間どもの間では勝手な呼び名があるようだがな。我にとっては、皆、魔物だ』
@勇者ヒロイン
『名前、つけないのか?』
@勇者ヒロイン
『それだけ魔物が大事なら、名前をつけたらもっと愛着ももてていいんじゃないか』
@魔王主人公
『……名 はいらぬ』
@魔王主人公
『名をつければ、それは個体となる。我はそれを望まぬ』
@魔王主人公
『魔物は皆、平等に慈しむべきものだ』
@勇者ヒロイン
『へぇ。不思議なこだわりがあるんだな』
@勇者ヒロイン
『でもそんな事言って、実はただ、区別がついていないだけなんじゃないか?』
@魔王主人公
『魔物はそれぞれ違う姿をしている。混合する事などありえぬ』
@勇者ヒロイン
『ふーん。そうなのか』
@魔王主人公
『……貴様には、我が側に控えるこの魔物たちが見えぬのか?』
@ヒロイン
「側に控えているって言われてもなぁ……」
@勇者ヒロイン
『ボクには何も、見えないな』
@魔王主人公
『ほう。それだけは同情してやろう』
@ 魔王主人公
『この素晴らしき魔物たちを目にする事ができぬとは、さぞ悔しい事だろう』
……たしかに、悔しい。
こんなに言うんだから、本当に、良い魔物たちなんだろう。
格好良かったり、可愛かったり、独特な姿をしていたりするんだろう。健気に魔王を慕っているんだろう。
@ヒロイン
「あぁ……見てみたいなぁ」
……。
……。
@ヒロイン
「……い、いやいや、違うだろ!」
@ヒロイン
「ボクは、何を言ってるんだ」
しまった。相手の魔物談義が熱すぎて、ついつい飲み込まれてしまった。
相手は、魔王を自称するかわいそうな人なんだ。その魔物たちなんて、結局はその人の脳内の魔物だ。
現実にいるわけじゃない。騙されるな。全 部、設定なんだ。
見てみたいだなんて思うのはおかしい。
この人のいうような世界なんて、あるはずがないんだ。
割り切って相手をしなきゃだめだ。
あくまでもボクは、この人に合わせて話をしてあげているだけなんだから、引きずられちゃいけない。
この人の妄想を信じたら、ボクはまた、おかしくなってしまう。
あの時のように、また……。
……。
とにかく、ボクはもっと積極的にリードして、この人の脳内設定【異界への扉を開く】を進めてあげなければ。
@勇者ヒロイン
『ところでさ。それだけ真面目に訓練してるって事は、魔物たちは強くなってきたんだろ』
@勇者ヒロイン
『そろそろ、実戦経験を積むのもいいんじゃないか?』
@魔王主 人公
『実戦、だと?』
@勇者ヒロイン
『勇者と戦わせてみたら、訓練とはまた別種の経験値が得られるんじゃないか?』
@ヒロイン
「訓練だけっていうのは、味気ないよな」
やっぱり、戦闘といったら実戦だろう。
特に、この場合の敵は勇者なんていう特殊なものなんだから、手に入る経験値も多そうだ。
@魔王主人公
『勇者との戦いには、常日頃から精鋭部隊を引き連れている』
@勇者ヒロイン
『引き連れて……という事は、ぞろぞろいるんだろ? それじゃだめだ』
これはものによって大分違うけれど、仲間が多いとそれだけ経験値が分散されてしまうタイプのRPGもある。
@勇者ヒロイン
『一対一で戦うからこそ、得られる経験もあるはずだ』
@魔王主人公
『……我は手出しするなと言う事か』
@勇者ヒロイン
『そうだ。一対一で、なるべく近いLvの魔物が戦うんだ』
@魔王主人公
『わざわざ危険な戦いをせよと言うのか』
@勇者ヒロイン
『命の危険があるからこそ、戦いになるんじゃないか』
@勇者ヒロイン
『それとも、魔物が信じられないのか? お前が自慢する魔物は、勇者に簡単に倒されるようなやつなのか?』
@魔王主人公
『……否。我が魔物にかかれば、勇者など恐るるに足らぬ』
@勇者ヒロイン
『なら、戦わせてみろよ』
@魔王主人公
『……よかろう。我は、魔物を信じているのだからな』
@ヒロイン
「はいはい。行ってらー」
@ヒロイン
「じゃあ、ボクはまた、結果を待ちながらゲームでもしようかな」
▲★主人公視点
4秒
@ヒロイン
「かー」
@ヒロイン
「なー」
@ヒロイン
「あー」
@ヒロイン
「ぁー」
@主人公
「……これでは、うるさくてかなわんな」
鏡から聞こえる伸びた声に、我はため息を吐く。
おそらくこの勇者は普通に喋っているつもりなのだろ うが、時の流れに違いがあるため、
こちらでは遅く聞こえる結果となっているらしい。
1文字が約2分ほど続くため、耳にするたびに気になって仕方がない。
伸びたそれも繋げればまともな言葉になるのだろうが、その気にもなれぬ。
この間抜け面が吐く言葉だ。どうせ、大した事は喋っておらぬだろう。
@主人公
「……だが、なぜこれほどに喋るのだ」
このように声が届くようになってわかった事だが、石版の勇者は喋る事が多い。
しかし、目に見える範囲に他の存在がない事からすると、これは独り言なのだろう。
発言とは、他者に向けてするものだ。それを誰もいないところで行うなど、理解できぬ。
それとも、そうしなければならぬ理由でもあるのか。
たとえば、そう。相手がおらぬ、とか。
@主人公
「……ク、クク。そうだとすれば、滑稽だ」
@主人公
「否。話す相手もおらぬとは、もはや哀れだとしかいえぬ。なぁ、魔物よ」
@主人公
「……。む?」
奇妙だ。常ならば、ここで「ぴぎゃ」という声が聞こえるはずなのだが……。
……。
@主人公
「あ、あぁ。そうか。そういえば、今は見回りに行っているのだったな。うむ」
思い出し、我は改めて石版を見る。
@主人公
「この感覚を……懐かしい、と言うのだろうか」
あの石版の者は、他人事だからと好き勝手な事を言う。
@主人公
「……魔王会議が頻繁に開かれていた頃も、こうだった」
@主人公
「それぞれが思った事を言い、反論や 同意があり。誰かの提案にのって行動しては、結果を話す」
そのようにして、勇者への対策を練った。魔物を育てた。己の力をみがいた。
忙しくも、騒がしい日々だった。
魔王会議が開かれる日を、待ち望んだ。
魔物のような鳴き声だけではない。唯一言葉をかわす事のできるその瞬間を、楽しみにしていた。
@主人公
「……あの頃のようだ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
@主人公
「……む? 魔物よ。戻ってきたか」
@魔物Lv5
「ぴぴぴ、ぴぎゃー!」
@主人公
「そうか。性懲りもなく、新たな勇者が現れたのだな」
@主人公
「ならば、出る」
@主人公
「今回連れて行くのは魔物Lv25だけだ。他のものは待機するよう、通達せよ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
;▲
@主人公
「……みな、強くなったな」
@魔物たち
「ぴぎゃー!」
立ち並ぶ魔物たちを、ゆっくりと眺める。
厳しい訓練。そして勇者との実戦。
それらを繰り返した結果、我が魔物たちは格段に強さを増したといえるだろう。
その姿の、なんと立派な事か。
@主人公
「お前たちの努力により、我が力も増した。……感謝する」
@魔物たち
「ぴぎゃぁ!」
こ うべを垂れる魔物たちを一瞥して、我は立ち上がる。
そして、鏡に向かって指を突き出した。
@主人公
「……ハエレティクス・ゲート!」
@主人公
「……、おぉ」
能力を発動させた途端、以前とは違う感覚を覚える。
流れてくる魔力の量が増えている。異界に通じる扉は、確実に大きくなっているようだ。
@主人公
「まだ我が通るには狭い、が……」
@主人公
「我が魔力の奔流よ、塊となりて力を示せ。ヴァンデルン!(移動する)」
我が指先から魔力を放つと、それは扉を越えて異界にとどまった。
やはり、この程度の魔力ならば我との繋がりを保ったまま送ることが可能なようだ。
ならば、これを利用すれば新たな事ができるはずだ。
@主人公 「勇者の驚く顔が楽しみだ。なぁ、魔物よ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
;☆一日終了
;▲★ヒロイン視点
@魔王主人公
『勇者と戦った』
@ヒロイン
「はーい、おはよう」
昨日は、ゲームをやっているうちに眠っていたらしい。
目覚めると表示されていたその文字を見て、ボクはアクビをしながらキーボードを打つ。
@勇者ヒロイン
『どうだった? ちゃんと、静かに見守ったんだろうな?』
@魔王主人公
『当然だ。我が手を下すまでもなく、我が魔物が勇者を殺してみせたわ』
@ヒロイン
「……へぇ、意外だな」
この魔王の設定からすると、今回もどうせ失敗するとばかり思っていたのに。
@魔王主人公
『我が魔物は、やはり素晴らしい』
@魔王主人公
『傷ひとつなく勝利する、あの優美な姿を貴様にも、見せてやりたいくらいだった』
@ヒロイン
「……ん? 傷ひとつなく、だって?」
@勇者ヒロイン
『ちょっと待て。勇者とLvが近い魔物を戦わせたんだよな?』
@魔王主人公
『そうだ。貴様の言葉に従うのは癪だったがな』
@勇者ヒロイン
『それなのに、なんで傷ひとつないんだ?』
そんなの、おかしいじゃないか。
Lvの差が大きいならともかく、今回はそうじゃないんだ。
いくら回避が得意な魔物だからって、すべての攻撃を避けるのは無理だろう。
@ヒロイン
「まさか……」
@勇者ヒロイン
『お前、側でずっと回復魔法を唱えていたんじゃないだろうな?』
@魔王主人公
『そんな事はせぬ。我が唱えたのは、つい先日街で購入した防御魔法のみだ』
@勇者ヒロイン
『……ちなみに、その防御っての はどれぐらい防御できるものなんだ?』
@魔王主人公
『一定量の攻撃を無効化する魔法だ』
@ヒロイン
「あー……。そうですか。まぁ、そんなところだと思ったよ」
たしかに、それなら戦いそのものには手を出していない事になるけれど……。
@勇者ヒロイン
『なんか卑怯だな、それ』
@魔王主人公
『なにが卑怯なものか』
@魔王主人公
『勇者は自由に装備を整え、魔法を覚え、奇妙な薬品を使いながら戦闘を行うのだぞ』
@魔王主人公
『我が少し魔法を唱えて送り出す事と何の違いがあるというのだ』
@ヒロイン
「そう言われるとそうかもしれないけど……。なんか受ける印象が違うなぁ……」
装備をととのえた勇者。と、魔王から強力な魔法をかけ てもらった魔物。だと、後者の方が有利に感じる。
でもそんな印象をボクに与えようとも、親バカな魔王設定を貫こうとするところは、好感がもてる。
だから、初めて街に行ったのは昨日のはずなのに、『先日購入した』と言ったその矛盾には目をつぶってあげよう。
@勇者ヒロイン
『まぁ、戦い方に関してはいい。結局、成果はどうなんだ?』
@魔王主人公
『ククク。貴様、我が真なる力が気になるのか?』
@勇者ヒロイン
『そりゃまぁ、知りたいからな』
@魔王主人公
『いいだろう。我が新たなる力を、その目でとらえるがよい!』
@ヒロイン
「ん? これって……」
見ると、自称魔王のコメントの下に画像が添付されている。
@ヒロイン
「……すごい。たっくさんのモンスターだ……!」
どのゲームでも見たことのない、モンスターの画像。
でも、どこか懐かしさを感じさせる、暖かな雰囲気のものだ。
中央にいるのは、おそらく魔王という設定なんだろう。
@ヒロイン
「これは、わざわざ描いた絵……って事なのかな?」
どうやって作成された画像なのかはよくわからないけれど、わざわざこんなものを用意するなんてすごい熱意だ。
@魔王主人公
『どうだ。驚き、おののいただろう?』
@勇者ヒロイン
『ああ。驚いたよ。すごいな!』
@魔王主人公
『このものたちこそが、わが自慢の魔物たちだ』
@魔王主人公
『もちろん、今見せたのはせいぜい一部に 過ぎぬ。この数十、否、数万倍の数の魔物が我のもとには集っているのだ』
書かれたその言葉を示すように、また魔物の画像がいくつも並ぶ。
@ヒロイン
「すごい……。すごい! 本当に、すごい!」
数枚どころじゃない。数百枚の画像がズラリと並んで、そこに映し出された魔物はどれも違うものだった。
こんなに本格的な画像、簡単に用意できるものじゃない。
一体、どれほどの時間をかけて制作したんだろう。
@勇者ヒロイン
『こんな圧倒される魔物画像、初めて見た。愛を感じる』
@魔王主人公
『クカカ、そうだろう』
@魔王主人公
『貴様はもうすぐ、この魔物たちと我によって殺されるのだ。よく覚えておくのだな』
@勇者ヒロイン
『ああ!』
@魔王主人公
『そう返されると、調子が狂うな……。人間とは、魔物を恐れるものではないのか?』
@勇者ヒロイン
『これほど可愛くて愛に溢れた魔物をこわがるなんて、変だろ』
@魔王主人公
『……そうか』
@勇者ヒロイン
『そういうお前は、ボクに魔物を怖がってほしいのか?』
@魔王主人公
『……否』
@勇者ヒロイン
『なら、この魔物たちはかわいいし、格好良いって事でいいじゃないか』
@魔王主人公
『うむ』
なんだろう。
自称魔王の反応が悪いけれど……ボクに褒められて、照れているんだろうか。
魔王にもかわいいところがあるじゃないか。
@ヒロイン
「あ、っと……画像に見とれてつい忘れてたけど、そろそろ本題に入らないとな」
@勇者ヒロイン
『ところで、もう魔物の訓練を監督する必要もなくなっただろ?』
@勇者ヒロイン
『そろそろ、次の魔力上げ方法を始めないか?』
@魔王主人公
『望 むところだ』
@魔王主人公
『それで、今度は何をすればいいのだ?』
@勇者ヒロイン
『次は……アイテム探しだ!』
本当は、魔王をレベルアップさせる事ができればいいと思う。
けれど、魔物を溺愛するこの魔王じゃあ何を言っても魔物と戦いそうにない。
かといって、勇者や街の人間では弱過ぎて経験値にもならないようだ。
そうなったら、あとはもう、アイテムで直接ステータスを上げるくらいしか思いつかなかった。
@魔王主人公
『なんというアイテムを探せばよいのだ?』
@勇者ヒロイン
『それは……世界によって違うから、なんとも言えないな』
このあたりは、ゲームによって様々だ。
何か草みたいなものだったり食べ物だったり、鉱石だっ たり。
説明が難しいけれど、まぁ、魔力を上げるものなんだから……。
@勇者ヒロイン
『多分、魔力を感じるようなもの、だと思う』
@魔王主人公
『わかった。そのような物を探そう』
@勇者ヒロイン
『あ、そういうアイテムは街には売ってない事が多いからな。地道に宝箱を開けるんだぞ』
@魔王主人公
『……宝箱とは、どこにあるのだ』
@勇者ヒロイン
『それは勿論、世界中さ!』
;▲★主人公視点
@主人公
「……」
@主人公
「ううむ……」
@主人公
「魔物よ。宝箱は見つかったか?」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ……」
@主人公
「そうか。我もだ。宝箱なるものが、視界に入らぬ」
これは一体、どうした事か。
石版の勇者は、世 界中のいたるところに宝箱なるものがあると言っていた。
しかしいざ探し始めてみれば、そんなものはどこにもない。
洞窟、草原、森の中、果ては海中から空まで。
様々な魔物にも手伝ってもらったが、それらしきものが見つからぬ。
人間にしか見えぬ、特殊な物体なのだろうか。
;▲街
@主人公
「宝箱はどこにある」
@人間
「は……?」
@人間
「すみません、勇者様。私にはわかりません」
@主人公
「ならば質問を変える。宝箱とは、なんだ」
@人間
「そうですね……。宝の入っている箱、ではないでしょうか」
@主人公
「宝とはなんだ」
@人間
「人によって違うかと思いますが、大事なものの事ではないでしょうか」
@主人公
「大事なもの、か」
@人間
「はい。その人にとって、命にかえても守りたいと思うもの。絶対に失くしたくないと思うもの」
@人間
「それを、宝というのだと思います」
@主人公
「なるほど」
;▲★ヒロイン視点
@魔王主人公
『戻ったぞ』
@勇者ヒロイン
『はい、おかえりー。で、どうだった?』
@魔王主人公
『貴様の言う通りに、宝箱というものを見つけてきたぞ』
@勇者ヒロイン
『ああ。それで? 中身はなんだった?』
@魔王主人公
『魔物だ』
@ヒロイン
「……え?」
@魔王主人公
『我にとっての宝は、魔物だ』
@ヒロイン
「……はい?」
@魔王主人公
『そんな魔物がたくさん存在する場 所……つまり宝箱というのは、我が魔王城の事なのだろう?』
@魔王主人公
『だが、我が魔王城がどうしたというのだ? この城に、魔力が上がるようなものがあるとは思えぬのだが……』
@ヒロイン
「んんん?」
待って待って。宝箱が、魔王城? なにそれ。どんな結論?
どうしよう。自称魔王の思考についていけない。
とりあえず、落ち着いて考えてみると……。
@勇者ヒロイン
『魔王。それは勘違いだ。魔王城と宝箱はなんの関係もない』
@魔王主人公
『そうなのか? だが、我にとって魔物とは宝であり』
@勇者ヒロイン
『とにかく関係ないから!』
@勇者ヒロイン
『で、その様子だとボクの言う宝箱は見つからなかったんだな?』
@魔王主人公
『うむ。魔王城が宝箱でないとすれば、他にそれらしきものはなかった』
@ヒロイン
「つまり、宝箱がない世界、っていう設定か……」
なんだそれ。ありえない。宝箱が設置されていない世界なんて、つまらないじゃないか。
でもまぁ、無くしたいと思う気持ちも理解はできる。
勇者のためにわざわざ宝箱が設置されているなんておかしい、とでも思ったんだろう。
@勇者ヒロイン
『わかった。その世界には、宝箱がないという事でいいんだな』
@魔王主人公
『そのようだな』
@魔王主人公
『クカカ。あれほど偉そうに言っていたというのに、貴様でも知らぬ事があるのだな』
@魔王主人公
『たしか、宝箱はそこらじゅうにある、などと 言っていたのではなかったか? ん?』
@ヒロイン
「……ちぇっ。調子に乗っちゃって」
@ヒロイン
「お前の勝手な設定なんて、知るわけないだろ」
@ヒロイン
「面白くないなぁ。よし、こうなったら……」
@ヒロイン
「『あんまり調子に乗ってると、もう助言なんてしてやらないぞ』っと」
@魔王主人公
『いhんdきがj、すまぬ』
@ヒロイン
「わっ。相変わらず早っ!」
@ヒロイン
「しかもなにこれ。動揺しすぎだろ」
それほど、ボクに無視されたくないのか。
そう考えると気分はすぐに浮上する。
@勇者ヒロイン
『しかたないな。からかった事は許してやるよ』
@魔王主人公
『そうか』
@勇者ヒロイン
『じゃあ、次 の指示を出すぞ』
@魔王主人公
『うむ』
宝箱のない世界だけど、アイテムという言葉が通じたことを考えると、そういった物は存在しているらしい。
宝箱以外の方法でアイテムを手に入れるといったら、あとは……。
@勇者ヒロイン
『採掘だ!』
;▲★
@主人公
「採掘というのは、このツルハシという物を使って行うらしい」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ」
街で買ってきたツルハシを眺め、我は構える。
本来ならば、もっと多くのツルハシを用意し、多くの魔物とともにこの採掘というものをしたかった。
だが、手持ちの金では一つしか買う事ができなかったのだから仕方ない。贅沢は言っておれぬ。
@主人公
「早速……やるぞ」
そう。この一つしか、ツルハシはないのだ。事は慎重に運ばねばならない。
まずは、手から抜けてしまう事のないようにしっかりと両手に持ち……。
@主人公
「なっ!」
@魔物Lv5
「ぴぴぴ、ぴぎゃーっ!」
@主人公
「く、砕け散ってしまった……」
なんという事だ。我はまだ、何もしておらぬというのに……!
もとの形がわからぬほど、粉々になっているではないか!
@主人公
「わ……我が手中に集いし魔の力にて、回復せよ。クーア!」
……。
く。やはり、物に回復魔法は効かぬか。
@主人公
「……こんな事が許されるのか」
@主人公
「我はまだ、一振りすらしておらぬ! ただ、持っただけだった。それなのに……!」
@主人公
「こんな、たったこれだけで、我がなけなしの150ゼネーが消えてしまうとは……」
一体、何がいけなかったというのだ。
近頃、勇者からあまり金を奪っていなかった事か。
それとも、先日、新たな魔法を衝動買いしてしまった事か。
……否。この、ツルハシというものの強度が低いから悪いのだ。
@主人公
「……魔物よ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ?」
@主人公
「我は、ツルハシを購入した店に戻る」
@主人公
「他の魔物たちにも、あの街に来るように伝えよ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
@主人公
「このような脆い物で金を得ようとする愚かな人間は、殺さねばならぬ」
;▲
@主人公
「粛清は済んだわけだが……根本的な問題は解決しておらぬな」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ……」
ツルハシも、その売店も消え失せた今、どのようにして勇者の言うアイテムを見つければ良いのだろうか。
ううむ……。
ん?
そもそもツルハシという物は、この岩盤を砕き、土を掘るために使うものだと店主が言っていた。
という事は、そんな物がなくとも岩を砕くことができればよいのか。
@主人公
「ク……そうか。そういう事か」
軟弱な人間に合わせる必要などない。我には、この強大な力があるではないか。
攻撃魔法ならば、むしろ我の得意分野だ。
我は笑みを浮かべ、手のひらを岩に向ける。
@主人公
「我に纏いし魔の塊よ、刃となりて放たれん。――ヴィント・クリンゲ!(風の刃)」
我の言葉と共に放たれた刃は、岩盤がを砕く。
そんな事を数回繰り返していると、不意に、それまでのものとは違った岩肌が見えた。
否、これは……なにかの塊の用だ。
手にとって見ると、それは眩い光を放っていた。
@主人公
「……美しい」
なんと。まさか、このようなものが埋まっているとは。初めて見る物体だ。
@主人公
「……なるほど。これが採掘か」
このようにして、掘り進んでいけばいいのか。
そして、その旅にこうして見たこともない物を発見する事ができるのか。
なんと面白い事だろう。
@主人公
「よし、これより、全軍を使って採掘を始める。魔物よ。動くことのできる、すべての魔物たちに収集とをかけよ!」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ」
;▲
@主人公
「クックック……」
我が眼前に立ち並ぶのは、色とりどりの塊だ。
素晴らしい。
これほど多くの物質を見つける事ができるとは、さすがはわが魔物たちだ。
これだけの一人種類があれば、おそらく、勇者の言っていた魔力の上がるアイテムとやらもあるだろう。
実際に、魔力を感じる塊はいくつもある。
だが……。
@主人公
「一体、どのこれをどうすればよいのだ?」
よく考えてみれば、あの勇者は見つけろと言っただけで、その後の事は行っていなかった。
まったく、なんという怠慢か。その後のことまで含めて支持してもらわなければこまるではないか。
早速、教えてもらわなければ。
@主人公
「ハエレティクス・ゲート!」
我は鏡に向かって手を伸ばす。
すると、いつものように異界への扉が……。
……。
な、なぜだ。
鏡はたしかにまたたいた。しかし、何も映らぬではないか。真っ暗だ。
これは、どうなっているのだ。
@主人公
「……また、眠っているのか?」
しかし、その場合は眠った姿の勇者がうつるはずだ。では、この状況はなんだ。何が怒っている。
……。少し、待ってみるか。
;▲
@主人公
「……」
あれから、一日が過ぎた。だが、未だに鏡は真っ暗なままだった。
何かが映る事もなければ、声が聞こえる事もない。
……どうしてしまったというのだろう。
@主人公
「魔物よ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ?」
@主人公
「我らの世界と、あちらの世界では時の流れが違う。それは、すでにわかっている事だったな」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ」
@主人公
「だからこの現象も、あちらにとってはほんのすこしのあいだの出来事なのだろうな」
そうだ。気にかけるほどの事ではない。
あちらの世界では、少しの間、いつもとは違う出来事が起きているだけなのだろう。
それはわかっている。
わかっているはずなのだ。
それなのに……なぜ、我はこれほどに同様しているのだろう。
……。否。我は、気に入らないだけなのだろう。勇者に支持されてやった事だというのに、肝心の勇者がその結果を見ようともしないから、苛立っている。それだけのはずだ。
;▲
@主人公
「魔物よ。勇者が消えてから……もう、1月になるな」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ」
@主人公
「……」
物音がせぬ。
石版が表示されていないため、そこに文字を刻むこともできぬ。
あちらで何が起きているのか、何もわからぬ。
このまま、我はどれほどの間、待てばよいのだろう。それすらもわからぬ。
@主人公
「我は……また、一人になってしまったのだろうか」
思えば、誰とも花讃岐かkkがこれほど続くというのは久方ぶりかもしれぬ。
以前までは、魔王会議があった。
それがなくなってしまった後は、この勇者の事で頭がいっぱいだった。
石版の勇者と初めて会話をしてからの、この数年間。我はずっと、勇者の事を考えていた。
勇者の指示に従い、時に失敗し、除店を受け、再び挑戦した。
それが、今はない。
それがなければ、せっかく集めたこれらのアイテムたちも、すべてはガラクタでしかない。
なんと、虚しい事か。
;▲
@主人公
「魔物よ。まだ、変わらぬな」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ……」
あいも変わらず、我はこの暗くなった世界を見つめ続けるしかないのか。
このまま、我は永遠に……。
……
ん?
@主人公
「こ、れは……」
光だ。どこからか、光が指している。
まさか。これは、本当に……
@主人公
「あ……」
勇者だ。勇者が、いるではないか。
@主人公
「……そうか。帰って、来たのだな」
@主人公
「どこかから、戻ってきたのだな」
@主人公
「生きて、いたのだな……っ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ? ぴぎゃぎゃ!」
@主人公
「む? う、うるさいぞ! わわ、我は、泣いてなどおらぬ!」
@主人公
「否。涙を流しているというのは、否定せぬが……これは、安堵の涙だ」
@主人公
「これからこの勇者を苦しめる事ができるかと思い、安心しただけだ」
@主人公
「決して、嬉しかったわけではないのだからな。勘違いするでないぞ」
@魔物Lv5
「ぴぎゃぴぎゃ」
;▲★ヒロイン視点
@ボク
「あ、休止状態になってる」
部屋に戻ってくると、いつの間にかパソコンの画面が消えていた。
思ったよりこの部屋から離れていたんだなぁ、と考えながら、パソコンを起動状態に戻す。
そうしてブログを見ると……その瞬間、コメントが増えた。
@魔王主人公
『勇者よ。貴様、今まで何をしていたのだ』
@ボク
「何を、と言われても……いろいろとしか言えないよなぁ」
お風呂入ったり、ご飯食べたり、後はちょっと、お母さんからいろいろ言われたり。
……。
まぁ、そんなのはどうでもいい。
@勇者ヒロイン
『もしかして、ボクがいなくて寂しかったのか?』
@魔王主人公
『そんな事はない! 貴様など待っておらぬ!』
@ボク
「はいはい。わかったわかった」
この様子からすると、やっぱりボクの事を待っていたんだろう。
でも、それなら昨日や一昨日のようにコメントが大量に増えていなかったのは不思議だ。
……自称魔王も、少しは成長して我慢を覚えたという事だろうか。
@勇者ヒロイン
『まぁいいや。それで、アイテムはあったか?』
@魔王主人公
『ああ、そうだったな。これを見よ!』
@ボク
「へぇ……。こんな画像も用意したのか」
画面上に表示されたのは、また、それっぽい感じのアイテム画像だ。
魔物の画像といい、この自称魔王はこういうものを準備するのが好きなのかもしれない。マメな事だ。
@勇者ヒロイン
『見つかったなら、よかった。じゃあ早速、使ってみてくれ』
@魔王主人公
『使う、とはなんだ?』
@ボク
「え? 使うといえば、コマンドから使うというものを選んで……」
って、そうか。そうじゃないんだった。
ゲームじゃない、という前提で話しているんだから、そんなコマンドなんて存在しないという事か。
……相変わらず、しっかり考えているんだなぁ。
でも、それならどうやって使わせたらいいんだろう。
これは、石っぽい見た目だから……。
@勇者ヒロイン
『よし、とりあえず装備してみてくれ』
@魔王主人公
『持っているが、何も起こらぬぞ』
@勇者ヒロイン
『もっとそれっぽく、装備だ装備!』
@魔王主人公
『ううむ……。頭に乗せてみたが、何も変わらぬ』
@ボク
「これはハズレか……」
@勇者ヒロイン
『じゃあ、割ってみてくれ。粉々にしたら、なんかこうパーっと光が出て、消費したことになるかもしれない』
@魔王主人公
『粉々にしたが、ただの粉だぞ』
@魔王主人公
『光などどこにも見えぬ。我はしょせん、闇の存在という事か』
@ボク
「これも違うのか……」
どういう事だろう。装備してもだめ、割ってもダメだなんて、おかしい。
こんな塊なんだから、それぐらいしか使い道ないだろ?
一体、この自称魔王はどんな設定が好みなんだ。
……うーん。あとは、何が思い浮かぶだろうか。
@勇者ヒロイン
『溶かせ!』
@魔王主人公
『溶けぬ!』
@勇者ヒロイン
『撫でろ!』
@魔王主人公
『つるつるだ』
@勇者ヒロイン
『振れ!』
@魔王主人公
『振ったら頭にぶつけた。痛いぞ』
@勇者ヒロイン
『魔力をこめろ!』
@魔王主人公
『こめたが受け流された』
@ボク
「どれもダメか……。ええい、じゃあ後はこれだ!」
@勇者ヒロイン
『その岩みたいな塊を、食べろ!』
@魔王主人公
『食べるとはどうすればいいのだ』
@魔王主人公
『我は何かを食べた事がないから、わからぬ』
@勇者ヒロイン
『魔物が人間とか食べてるのは見たことあるだろ? それを思い出せ』
@勇者ヒロイン
『歯で噛み砕いて、飲み込む。それが食べるって事だ』
@魔王主人公
『試してみよう』
@ボク
「……」
@魔王主人公
『ダメだ。固くて砕けぬ』
@勇者ヒロイン
『じゃあ、まるのみだ! まるのみ!』
@魔王主人公
『丸の実とはなんだ?』
@勇者ヒロイン
『ま、る、の、み! 噛まずに飲み込むことだ』
@魔王主人公
『そうか。やってみよう』
@魔王主人公
『……こ、これは……!』
@勇者ヒロイン
『どうした?』
@魔王主人公
『……』
@魔王主人公
『力が溢れてくる』
@ボク
「ようやくか……」
@勇者ヒロイン
『そうか。それは良かったな』
@勇者ヒロイン
『特殊能力も、強まったか?』
@魔王主人公
『ああ。今度こそ異界への扉を開き、貴様の元に行く事ができるだろう』
……あ。そうか。
そういえば、そういう話だった。
そうだそうだ。ボクは、殺されたいから、この魔王と話していたんだった。
@勇者ヒロイン
『じゃあ、ボクを殺してくれるんだな』
@魔王主人公
『……そうだな』
@魔王主人公
『フ、ハハハハ! 待っていろ、勇者よ』
@魔王主人公
『準備を整え次第、我は貴様を殺しに行く』
@ボク
「あ……」
そうか。ついに、来てくれるのか。
今度こそ、来てくれるのか。ボクを殺してくれるのか。
この自称魔王がどんな人で、どうやってボクを特定して、どうやって殺してくれるのかはどうでもいい。
ただ、殺してくれさえすればいい。
ボクを、この世界から消してくれるなら。それでいい。
@魔王主人公
『残りわずかな生を、怯えながら過ごすが良い』
@ボク
「……あぁ、楽しみだなぁ」
一体、いつ来るんだろう。
数時間後? 数分後? それとも、数秒後?
考えるとワクワクする。胸が高鳴る。そわそわして、落ち着かない。
@ボク
「……あ。お茶菓子でも用意しよう」
そうだ。
ボクを殺してくれる相手なんだから。誠意をもって、もてなさなくちゃ。