シナリオ編<オマケ6>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<2>」 第110回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた
第110回 シナリオ編<オマケ6>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<2>」
執筆者:企画担当 ケイ茶
他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。
ケイ茶です。
前回の続きです。
「魔王&勇者モノ<2>」
;▲★主人公視点
我は、その文字を睨めつける。
@勇者ヒロイン
『魔王なら魔王らしく、しっかりと、僕を殺してくれよな』
@主人公
「ぬぅう……」
一体、これは何なのだ。
ハエレティクス・ゲートによって、未知の異世界と通じた事はわかっている。
だが、通じた先が奇妙だ。
鏡に映し出されているのは、見覚えのない石版。
映っている範囲でしか読むことはできないが、その一部分から、これが勇者の冒険を記したものである事は推測ができた。
しかし、その後が問題だ。
勇者の持ち物ならば、勇者に言葉がとどくだろうと思い、我も石版に文字を記した。ある程度会話も成立したといえる。
だが。この内容は、とても勇者のするものだとは思えん。
否。生物が発する言葉だとは思えん。
@主人公
「自害ではなく、殺される事を望むとは……」
しかも我に。魔王に殺されたいと。
殺されたいから、異界へ通じる手助けをするだと?
……ありえぬ。
自害ならば、なるべく苦しまぬ方法をとる事ができるだろう。
しかし、我に殺されるとなればどのような方法かもわからぬ。
泣き叫ぶような苦痛を与えられ続けるかもしれぬというのに、なぜこのような事を言うのか。
@主人公
「……わからぬ。これには、どんな意図があるのだ……」
@魔物Lv5
「ぴぎゃー……?」
相手は勇者だ。正々堂々と待ち構える我ら魔王と違い、どのような手段を用いるかわからぬ。
つまり、順当に考えるならば、これは罠だという事になる。
この勇者が、本当に異界への移動方法を知っていたとしよう。
その場合、我がこの勇者のいる世界に移動した瞬間、なんらかの魔術が発動するのかもしれぬ。
しかしその場合、勇者の利益はなんだ。わざわざ異世界の魔王を呼び出して、殺そうとする理由が考えられぬ。
@主人公
「ぬぅうう……勇者め……」
勇者というものは、常にそうだ。己の中で完結した何かを絶対的な正義として行動を起こす。
故に考えが読めず、厄介だが……惑わされはせぬ。
@主人公
「我は、唯一残りし魔王、主人公だ」
@主人公
「勇者など、恐れぬ」
我は石版を見据えた。
指先を持ち上げ、その先端に魔力を集中させる。
@主人公
「我が体躯に集いし魔よ。異界の地にて発現せよ。……シュピラーレ・エクリ!(螺旋文字)」
@魔王主人公
『いいだろう。我が、直々に貴様を殺す』
我の魔力が異界に通じ、文字となって具現化される。
突如として石版に刻み込まれたこれに、勇者は恐れおののいている事だろう。
@魔王主人公
『気が変わったなどと言おうと、逃しはせぬ。どのような世界に逃げようと、我が追い詰め、殺してやろう』
勇者よ。罠を張りたければいくらでも用意するがよい。
だが、我はそのすべてを打ち破り、貴様を殺す。
たとえ異界の者であろうと、勇者はすべて抹殺だ。
;▲★
@魔王主人公
『いいだろう。我が、直々に貴様を殺す』
@ヒロイン
「ふーん。……頑張って、魔王キャラを演じるつもりなんだ」
@ヒロイン
「逃げなくて、えらいえらい」
棚の奥にあったポテトチップスを食べながら、画面を眺める。
この調子なら、すぐにどこかへ消えちゃう事はなさそうだ。
それなら、この自称・異界にいる魔王が、脳内でこっちの世界に来れるように、サクサク話を進めていこう。
@勇者ヒロイン
『僕を本気で殺してくれるみたいで、安心した』
@勇者ヒロイン
『ただ、気になっていたんだが……異世界にいるのなら、なぜ僕と話ができているんだ?』
そう。まずはここ。異世界にいるから僕を殺せないと言いながら、異世界の僕とは会話ができている。
これは見逃すことのできない矛盾点だ。
@ヒロイン
「今頃、この自称魔王は顔を真っ赤にして恥ずかしがっているんだろうなぁ……」
さて。今度はどんな無茶な設定を出してくるんだろうか。
楽しみながらエンターキーを押してコメントを書くと、
@ヒロイン
「うわっ、早!」
1秒と経たずに返事がきた。
@ヒロイン
「あー。必死だなぁ」
@ヒロイン
「えーっと、内容は……」
@魔王主人公
『貴様は無知だな。魔王は、各々が特殊能力を有しているものだ』
@魔王主人公
『中でも、我の特殊能力・ハエレティクスゲートは異界との扉を開く稀有な力』
@魔王主人公
『それを使えば、この程度の会話をする事など造作もない』
@ヒロイン
「……ふーん」
つまり、この魔王は異世界にいるから僕を脅す事しかできない。
異世界にいるけど会話できる理由は、そういう特殊能力があるから。
そんな設定って事か。
都合の良い設定だけど……まぁ、及第点ってところかな。
@ヒロイン
「えーっと、ゲートは扉として、ハエレティクスっていうのは……」
ブログを開きつつ、横で検索エンジンを使って探ってみる。
と、すぐにその言葉が出てきた。
ハエレティクス。ラテン語で異端者。
@ヒロイン
「異端者の扉、って事か」
@ヒロイン
「まぁ、雰囲気として言いたい事はわかるような気もするけど……異世界と異端者って、全然違うよね」
思った通り、稚拙な設定だ。
けれど、そこは指摘せずにおこう。あんまりからかって、逃げ出されたらつまらない。
ある程度、この人の設定に話を合わせてあげないと。
@勇者ヒロイン
『さすが、魔王はすごい能力を持っているな。……恐ろしい』
@魔王主人公
『当然だ。我は、勇者などとは格が違う』
@勇者ヒロイン
『つまりその、ハエレティクス・ゲートという特殊能力の効果が強まれば、異世界への移動も可能になるんじゃないか?』
@魔王主人公
『……効果を強める、だと?』
@勇者ヒロイン
『そうだ。魔法にも下位魔法や上位魔法があるだろ。それと同じように、特殊能力にも段階があるんじゃないか?』
@魔王主人公
『ふむ……』
@勇者ヒロイン
『そもそもその特殊能力は昔から使うことができたのか?』
@魔王主人公
『否。当初、この力は数分程度しか持続する事ができなかった』
@魔王主人公
『だが、今では他の世界との繋がりが消えぬ限り、永久に続ける事ができる』
@勇者ヒロイン
『なるほど。やっぱり、その特殊能力は何かの影響を受けて効果が強くなったりするんだな』
@ヒロイン
「おっけー。そういう設定ね。わかるわかる」
@勇者ヒロイン
『具体的に、何によって影響を受けるのか心あたりはあるか?』
この場合だと、パターンは3つぐらいかな。
使用頻度によって能力が開花していく、とか。
キャラクターのステータスによって能力の強さも変化、とか。
その能力に応じた特殊なイベントを終えると一段階上の別の能力になる、とか。
さて、自称魔王が引っ張ってくる設定は……?
@魔王主人公
『我にも詳しくはわからぬ』
@魔王主人公
『だが、魔力に応じて変化しているのではないか、と考えていた魔王が過去に存在した』
@ヒロイン
「はいはい。ステータスで変わるタイプね」
@勇者ヒロイン
『なら、話は簡単だ。お前の魔力が上がれば、異界への移動が可能になるんだな』
@魔王主人公
『随分と、簡単に言ってくれるな』
@魔王主人公
『貴様らのような矮小な人間と違い、我はすでに強大な力を得ている』
@魔王主人公
『これ以上の力を手にする事は、難しいのだぞ』
@勇者ヒロイン
『……さて。はたしてそうかな?』
@勇者ヒロイン
『魔王。お前、今はどんな防具をつけているんだ?』
@魔王主人公
『防具など、つけておらぬわ』
@ヒロイン
「えっ、なにその設定」
@勇者ヒロイン
『まさか……お前、全裸なのか』
@魔王主人公
『同じ価値観でものを言うな』
@魔王主人公
『我が身にまとっているのは闇の力。それが我が体躯を包む衣だ』
@ヒロイン
「あー……。防具っていうより、なんかふわふわした不思議な力を使ってますって言いたいのか」
まぁ、魔王が「革の鎧つけてます」って設定を出されるよりは、それっぽいかなぁ。
@勇者ヒロイン
『防具の事はいい。ならば、武器は何を使っているんだ?』
@魔王主人公
『武器などいらぬ』
@魔王主人公
『貧相な人間のように物に頼らずとも、我はこの身1つで戦う事ができる』
@ヒロイン
「……わかってないなぁ、この人」
拳銃に対して素手で立ち向かうとかは、そりゃあ格好良いよ。
RPGでも、あえて武器を装備しないとか、初期装備のままで戦うとかやりたくなるのもわかる。
でも、それはあくまでもお遊びだ。やっぱり本気で冒険をするのなら、いろんな武器を装備して楽しみたい。
それに、なによりも。
@勇者ヒロイン
『防具もそうだが、武器は装備するだけでステータスが上がるものだ』
@勇者ヒロイン
『だから、魔力を上げるためには良い武器を手に入れるべきだ』
@魔王主人公
『……良い武器、だと?』
@魔王主人公
『愚かな。人間どもの作り出した武器など、我の使用に耐えうるはずがなかろう』
@魔王主人公
『興味本位で勇者の落とした剣を握った事もあるが、そんなもの、我が一振りで消し飛んだわ』
@ヒロイン
「ふーん。そういう設定でくるわけだ」
普通の武器は扱えない。だから装備もできず、魔力が上がらない。
イコール、特殊能力は強くならずに僕の世界にも来る事ができない。
そう言いたいんだろうけど、まだまだ甘い。
僕はポテトチップスを食いちぎりながら、キーボードに指をすべらせる。
@勇者ヒロイン
『言い方が悪かった。良い武器じゃなくて……伝説の武器、だったらどうだ?』
@勇者ヒロイン
『特別な言い伝えが残り、一般の武器とは明らかに一線を画した武器。それなら、魔王でも扱える可能性がある』
@ヒロイン
「……さぁて、どうかな?」
伝説。その響きは特別だ。こんな話を出されたら、魔王なんて自称するRPG好きはきっと……。
@魔王主人公
『そんなものが、我が世界に存在するというのか』
――ほら、かかった。
@勇者ヒロイン
『ああ。伝説の武器は、ある』
@魔王主人公
『ふむ……。解せぬな』
@魔王主人公
『勇者よ。貴様は、我が世界を知らぬはず』
@魔王主人公
『何故、そんな事が言えるのだ』
@勇者ヒロイン
『……それが、世界の理だからだ』
伝説の武器とか、最強武器とか、最終武器だとか、言い方は少しずつ違うかもしれない。
でも、RPGならそういう特別なものが絶対にある。ある、という設定にするべきだ。
@魔王主人公
『我は、そんな理など知らぬ』
@勇者ヒロイン
『疑うのなら、まずは情報収集をするといい』
@勇者ヒロイン
『いろんな街にいって、そこにいるNPCと』
@ヒロイン
「あ、間違えた。えーっと、もっと勇者になりきって書くと……」
@勇者ヒロイン
『会話が可能な人間全員と、話せばいい』
@勇者ヒロイン
『そのうちの、誰か1人ぐらいはそれらしい情報をくれるだろう』
@魔王主人公
『……その言葉、乗ってやろう』
@魔王主人公
『だが、もしも偽りならば、許しはせぬぞ』
@ヒロイン
「はいはい。行ってらっしゃーい、と」
@ヒロイン
「こうして、魔王は街に情報収集にいきました。……という設定なわけか」
この様子だと、ちょっと時間を開けてから、【街から戻ってきた魔王】という設定でまた話を再開するつもりかな。
伝説の武器があるという設定にするのか、それとも、やっぱり無いという設定にするのか。
それはどっちでも良いけど、この調子なら、思ったよりいい暇つぶしになりそうだ。
多少の設定に無茶はあるけど、一応は魔王らしく接してくるところも好感がもてる。
まぁ、今はポテトチップスを食べながら、のんびり待っていようかな。
;▲主人公視点
@主人公
「……」
@主人公
「魔物よ。伝説の武器というものを、知っているか?」
@魔物Lv5
「ぴぎゃー?」
@主人公
「やはり、知らぬか。……我も、そんな物の存在を認知してはおらぬ」
石版を通じて勇者が言った、伝説の武器。
本当に魔王でも扱う事のできる物だとすれば、たしかに見逃す事のできぬ武器だ。
また、あまりにも当然の事のように記されている事からすると、これは勇者の中では一般的な知識だという可能性も高い。
もし、その伝説なる武器を勇者が手にしたならば。何が起こるのか予想もつかぬ。
我の立場を考えれば、確実に手中に収めておかなければならない。
無論、それゆえに、この情報が罠だという可能性もまた高いが……。
@主人公
「……我は、少し外出をする」
@魔物Lv100
「びぎゃ!」
@主人公
「共はいらぬ」
@魔物Lv100
「びぎゃー……」
@主人公
「案ずるな。長く離れる気はない」
@主人公
「これは、よい機会なのだ」
思えば、我は勇者に対する知識が足りぬ。
以前より、勇者を見かけたらすぐに抹殺していたため、詳しく観察した事はない。
過去の魔王会議ではある程度の情報を得ていたが、それはあくまでも魔王から見た勇者という範疇を超えてはいなかった。
また、他の魔王との繋がりが消えてしまった今では、新たな話を聞く事もできない。
そういう意味では、石版の勇者は貴重な情報源だと言えるだろう。
何を考えているのかはわからぬが、利用価値はある。
@主人公
「……勇者によると、街へ行けば情報がある、との事だったな」
まずは、それをたしかめる事としよう。
@主人公
「――転移魔法、レッツェルライゼ」
;▲どこかの街
@主人公
「ふむ。手近な街についたようだな」
転移を終えた時の独特な浮遊感に包まれながら、周囲をゆっくりと見回す。
@人間
「ヒ、ヒィッ! ま、まさか、魔王……!?」
@人間
「魔王だぁあっ! 魔王が出たぞーっ!」
なるほど。たしかに、街に人間はいるようだ。
外出など、勇者を見付けた時にする程度だったため、妙に新鮮な気分になる。
@人間
「にげろ! 早く逃げるんだ!」
@人間
「あぁっ、勇者は……? 勇者様、お、お助けを……っ」
@人間
「何やってるんだ。勇者はもう皆死んじまっただろ!」
@人間
「そんなものに期待するだけ無駄だ。早く逃げろ!」
@主人公
「ふむぅ……」
しかし思いの他、人間というのは多いようだ。
それに、騒がしくてかなわん。
たしか、勇者は『会話が可能な人間全員と会話』と言っていたが……。
先程から、我を見た人間は皆、逃げ出していくではないか。
これでは、会話ができるとは思えぬ。
……一応、試してみるか。
@主人公
「そこの人間よ」
@人間
「ヒ、ィィッ! お、お助けを……っ」
我は、目に付いた人間に手を伸ばし、掴んでみた。
そうして顔を近づける、が。
@人間
「……」
@主人公
「……話にならぬな」
人間は、ピクリとも反応を示さなくなった。
どうやら気絶しているらしい。
この事からすると、やはり、逃げていく人間は会話ができぬ存在なのだろう。
つまり、この街には会話ができる人間などいないらしい。
ならば他の街に行って、会話可能な人間を探さねばならぬ。
;▲黒背景
…………。
……。
;▲魔王城 会議室
@主人公
「勇者め、我を謀ったな……!」
@魔物Lv5
「ぴぎゃー!」
@主人公
「どの街に行っても、会話などできぬではないか!」
@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」
あれから、いくつもの街を移動した。だが、すべて結果は同じだった。
我を見て、皆が逃げていく。
王を名乗る者のところにも行ったが、玉座から落ちて床を這いずりまわるだけだった。
それがあまりにも醜い姿だったために見ていられず、魔物の餌として持ち帰ったが、たいして気晴らしにもならなかった。
そのうえ、城に帰ってすぐに石版に文字を刻んだというのに、勇者からの返事が来ぬ。
@主人公
「我が怒りの刻印を、半日以上も無視するなど……ありえぬ」
一体、いつになったら勇者は言葉を返してくるのか。
そんな考えすらも勇者に弄ばれているようだと腹立たしく感じながら、我は石版をにらみ続けた。