シナリオ編<オマケ7>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<3>」 第111回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた
第111回 シナリオ編<オマケ7>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<3>」
執筆者:企画担当 ケイ茶
他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。
ケイ茶です。
前回の続きです。
「魔王&勇者モノ<3>」
;▲★ヒロイン視点
@ヒロイン
「あー、さっぱりした」
ポテトチップスは食べ終わった。そのゴミも捨てて、音を立てずにシャワーも浴びてきた。
少し爽やかな気分に浸りつつ、ボクはパソコンの画面に目を向ける。
@ヒロイン
「さてさて、自称魔王さんは街から帰ってきたのかな? って……」
@魔王主人公
『貴様、我を謀ったな』
@魔王主人公
『応えよ、勇者よ』
@魔王主人公
『我に恐れをなして、返事もできぬというのか』
@魔王主人公
『いつまでも無視を続けていられると思ったら、大間違いだ』
@ヒロイン
「うわー、なにこれ……」
コメント欄にずらりと並ぶ、魔王主人公の名前。
その数、数十件。
@ヒロイン
「ちょっと離れていただけでこれって……やっぱり、この人は基本的におかしい人なんだなぁ」
シャワーを浴びたといっても、せいぜい10分程度だ。
その間返事をしなかっただけで無視されたと騒ぐなんて、面倒な人だ。
@ヒロイン
「……まぁ、それぐらいの方がからかい甲斐があって良いか」
溜め息を吐きつつ、ざっとコメントをさかのぼって見てみる。
そうしている間にも、また数件新しいコメントが増えていく事は見なかった事にして。まずは、返事だ。
@勇者ヒロイン
『街から戻ったみたいだな。おかえり、魔王主人公』
@魔王主人公
『貴様……! やっと返事をする気になったか』
@勇者ヒロイン
『そう怒るな。ボクは、いろいろと忙しいんだ』
@勇者ヒロイン
『それより、会話できる人間が街にいなかったらしいが、それはどういう意味だ?』
@魔王主人公
『そのままの意味だ』
@魔王主人公
『我の姿を見ると、すべての人間が逃げ出した。捕まえても気絶するだけだ』
@魔王主人公
『会話ができる人間などおらぬではないか』
@ヒロイン
「えぇー……。この人、なんでこんなにボケた魔王の設定にしているんだろう」
普通、魔王を演じるのなら、もっと賢くて、何でも知っている、すごい感じの設定にしたいんじゃないだろうか。
まぁ、それがこの人の好みなら、合わせてあげるけれど。
@勇者ヒロイン
『お前、まさか魔王として街に行ったのか?』
@魔王主人公
『我は魔王。魔王以外になど、なれるはずがないだろう』
@勇者ヒロイン
『なに、開き直ってるんだ』
@勇者ヒロイン
『魔王が、街で堂々と情報収集なんてできるわけないだろ』
@勇者ヒロイン
『そういう時は、姿を変えていくのが定石だ』
@魔王主人公
『ふむ。……魔物になれという事か』
@勇者ヒロイン
『違う。人間だ。勇者になるんだ!』
@魔王主人公
『我は魔物にしか変化できぬ』
@ヒロイン
「うわ、また面倒な設定が……」
魔王といえば、もっと万能でいいのに。
さらっと人間に変わって、パーティに混ざっているぐらいの魔王にすればいいのに。
……仕方ないなぁ。
@勇者ヒロイン
『じゃあ、変化はしなくてもいい。布でもまいて、姿を隠すんだ』
@勇者ヒロイン
『多少怪しまれるかもしれないが、勇者だといえば大体許容されるはずだ』
@魔王主人公
『……それは、まことか?』
@勇者ヒロイン
『ああ。勇者ならちょっとおかしい事しても大丈夫だ』
@勇者ヒロイン
『勝手に部屋に入ってタンスやツボを探っても許される。それが勇者の証だからな』
@魔王主人公
『ふむ。そういうものか』
@魔王主人公
『だが、憎き勇者になるなど……』
@勇者ヒロイン
『あくまでも偽りの姿だ。我慢しろ』
@勇者ヒロイン
『それに、考え方を変えればいい』
@勇者ヒロイン
『勇者のフリをすれば、きっと街の人間は大喜びで歓迎してくれるだろう』
@勇者ヒロイン
『そんな人間を、お前は全員欺いているんだ。勇者を騙っているわけだから、勇者にも迷惑がかかる。魔王らしくて面白いじゃないか』
@勇者ヒロイン
『希望に満ちあふれた顔で近付いてくる人間を、嘲笑ってやればいい』
@魔王主人公
『……ふむ。たしかに、我が勇者として不審な行動を起こせば、それはそのまま勇者全体の評価に響くという事か』
@魔王主人公
『嫌悪に耐えて、やってみる価値はありそうだ』
@勇者ヒロイン
『だろう?』
@魔王主人公
『だが、できぬ』
@勇者ヒロイン
『……理由は?』
@魔王主人公
『勇者は、人間と話すものだろう』
@魔王主人公
『だが、我は人間との話し方がわからぬ。話した経験が無いに等しい』
@ヒロイン
「あー……つまり、コミュニケーション能力が低い、と」
そうだろうなぁ。と、このコメント欄を見ているだけでもわかる。
すでに、コメント欄というよりもリアルタイムのチャットと化しているこの状況。
しかも、そのうちの数十件は「早く返事をしろ」という催促のコメント。
魔王になりきって会話をしているというところからしても、会話が苦手だろう事は想像がつく。
ボクも他人との会話が得意な方じゃないけれど、絶対、この自称魔王の方が人と会話できない方だろう。
@ヒロイン
「あ。でも、これも魔王になりきっての言葉なんだっけ」
@ヒロイン
「そうすると、つまりは会話が苦手な魔王という設定だという事で……」
@ヒロイン
「……うーん、やっぱり微妙な魔王だなぁ」
相変わらず、変な設定が好きらしい。
でも、この人の演じる魔王って、完全に魔王から外れている気もしない。
大分ズレたところもあるけれど、それでも、なんとなく魔王っぽさが伝わってくる。
ちょっと変わった魔王が生きている、という気がしてくる。
いうならば、ギリギリ魔王という感じだ。完全な魔王っぽくはないけど、許せる。
@ヒロイン
「……そんな駄目な魔王には、アドバイスをあげようかな」
@勇者ヒロイン
『話し方がわからないって、今、お前はボクと話しているじゃないか』
@勇者ヒロイン
『この調子で普通に話すか、それが無理なら、いっそボクを参考にすればいい』
@魔王主人公
『……なるほど。試してみよう』
;▲★主人公視点 魔王城 自室
石版の勇者の言を受けて、我は早速布を身にまとってみる事とした。
だが……。
@主人公
「布をまとうというのは、面倒な事だな」
@魔物Lv20
「ぴぎゃ」
@主人公
「これでは、体を動かしにくいではないか」
@魔物Lv20
「ぴぎゃぴぎゃ」
どうも落ち着かぬ。
そもそも、どのような布を見にまとえば良いのかわからなかった故、城にあった適当なものを使ってみたが、これでいいのだろうか。
@主人公
「……わからぬ」
鏡に映った己の姿を見ても、首をかしげるばかりだ。
@主人公
「はたして、勇者とはこのようなものだっただろうか……」
@魔物Lv20
「ぴぎゃー……」
@主人公
「よい。この奇天烈な姿はお前のせいではない」
@主人公
「装備の手伝い、ご苦労だった」
@魔物Lv
「ぴぎゃ!」
;▲街
@主人公
「さて、結果はいかほどか……」
再び、我は街に来た。
今回は、以前と違って街中に突然現れるのではなく、街の外から足を踏み入れる形だ。
勇者には我のような高位の転移魔法など扱えぬ
はずだから、これが自然な入り方だろう。
……。
……む。早速、人間だ。
我を見ているようだが……。
@主人公
「……」
@人間
「ま、魔物……!?」
@主人公
「違う」
@主人公
「我はまお……否」
@主人公
「ボクは……ゆ、ゆゆ、ゆ」
グ……。まさか、我が勇者を名乗る時が来ようとは。
実際に口に出そうとすると、嫌悪で体が打ち震える。このまま、全身の皮がはげてしまいそうだ。
だが、言わねば。
@主人公
「ボクは、勇者だ!」
@人間
「勇者……」
@主人公
「そうだ。我……ボクは、どこからどう見ても勇者だ。魔物とは違うだろう?」
@人間
「た、たしかに……。魔物は喋らない」
@人間
「それに、その奇妙な格好も、勇者だとすれば不思議じゃない」
@人間
「という事は……」
@人間
「おーい、みんな! 勇者だ! 新たな勇者様が街にやってきたぞ!」
@人間
「なんだって!?」
@人間
「勇者様? 勇者様が街にいらっしゃるなんて、何年ぶりでしょう……」
@人間
「勇者様! 勇者様!」
なんという事だ。我を見て、わらわらと人間が集まってくる。
石版の勇者の言った通りではないか。
勇者を名乗るだけでこのように人間と話ができるとは、想像したこともなかった。
@人間
「勇者様、この街には一体何用で?」
@人間
「武器ですか、防具ですか、それともアイテムですか。宿屋ですか」
@主人公
「うむ。少し、人間と会話がしたかったのだが……」
@主人公
「お前たちは、なぜ我と言葉を交わす?」
@人間
「なぜって……そりゃあ、貴方が勇者様だからですよ」
@人間
「勇者様は、我々を魔物の恐怖から救ってくださるお方。そんな素晴らしき存在に協力しない人間なんて、いませんよ」
@主人公
「ふむ……」
……そうか。勇者の強さの秘密とは、こんなところにあったのだな。
勇者は、我ら魔王とは違う。
勇者であるだけで、多くの人間から慕われ、敬われる。そういった好待遇が約束されているという事か。
つまり、この人間たちが勇者を強くさせる一因でもあるのか。
このような人間たちのせいで、多くの魔王は命を落としたのか。
なんと、忌々しい。
@主人公
「……っ」
@人間
「……? 勇者様、いかがなさいましたか?」
@主人公
「否。何でもない」
いくら腹立たしくとも、今は耐えねばならぬ。
ここで騒ぎを起こしては、伝説の武器の情報が得られぬ可能性がある。それではまずい。
石版の勇者を殺すために、耐えるのだ。
耐えよ耐えよと心の中で繰り返し、我は深呼吸を繰り返す事で平静を保つ。
……うむ、落ち着いたぞ。
そういえば石版の勇者は、部屋に入ってタンスやツボを探る事こそが勇者の証だと言っていたはずだ。
とりあえず、そこの家にでも入ってみるか。
;▲室内
@人間
「うわっ! な、なんだいきなり!」
@主人公
「気にするな。我は勇者だ」
@人間
「勇者様? そういえば、さっき外でそんな声が……。だが、それにしても急に人の家に上がり込むなんて……」
人間がなにやらブツブツとつぶやいているが、たいした事ではないだろう。
それよりも、気にするべきは目の前に物体だ。
これが……例のツボか。
のぞきこんでみたが、暗くてよくわからんな。
@人間
「あの、そのツボがどうかなさいましたか……?」
@主人公
「……」
手を入れてみても、細々としたものが入っているだけでよくわからぬ。
ひっくり返してみるか。
@人間
「わぁっ! な、何するんですか! やめてください!」
@主人公
「なぜ止めるのだ」
@人間
「なぜ、って……」
人間は、奇妙なものを見るかのような目で我を射抜いている。
だが、それはおかしい。石版の勇者によれば、これは許される行為のはずだ。
我は、何か失態をおかしてしまったのだろうか。
@主人公
「我は、勇者としてこのツボを探った」
@主人公
「その事に、何か問題があるか?」
@人間
「それは……」
@主人公
「問題があるのならば、言え。矮小な人間よ」
@人間
「……いえっ。あ、ありません!」
@主人公
「そうか」
ふむ。ただの杞憂だったようだ。
これで、我は勇者として認められた事になるのだろう。
この調子ならば、すぐに目当ての情報を手に入れる事ができそうだ。
⇒この続きは2016年1月4日より公開します。