シナリオ編3「小さな起承転結を考える利点」 第40回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」の作り方

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第40回 シナリオ編3「小さな起承転結を考える利点」
執筆者:シナリオ・イラスト担当 R


 

他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。

 


 
こんにちは。Rです。
前回は、サンプルの企画の中から小さな流れ(起承転結)を探して考えてみました。
今回は、そうして考える事の利点を書いていきます。

◆何か、足りないと思いませんか?
◆その物語、入眠作用がありますよ
◆『肉じゃが』と『肉じゃがになる前のじゃがいも』
◆作りたいのは連作ですか?

 

 

◆何か、足りないと思いませんか?
利点その1。それは、冷静な目で見る事ができる、という点です。
たとえば前回考えた流れは、下記のものでした。

『主人公が、兵士から稽古をつけてもらうようになる』流れ
起、主人公は兵士に稽古を頼むが、断られてしまう。
承、それでも主人公は何度も頼む。
転、兵士が根負けする。
結、稽古をつけてもらえるようになる。

とりあえず、流れとしては始まりと終わりができているのですが……しかしこれ、ちょっとつまらないと感じませんか?
この文だけを見ると、兵士は一旦断っておきながら、主人公に粘られただけで意見を変えている事になります。それではなんだか拍子抜けです。
それだけで考えを変えるなら、初めから了承すればいいですよね。
こうなってくると、この流れそのものが無駄なように感じます。(※この兵士が意志の弱い人間だと思わせたい場合を除きますが)

では、どうするのか。
流れを考え直しましょう。
といっても、この場合は流れそのものを壊す必要はなく、追加するだけで良いと思います。
兵士の心変わりが納得いかないのですから、ここは、兵士が心変わりするきっかけを足してみましょう。

『主人公が、兵士から稽古をつけてもらうようになる』流れ 改
起、主人公は兵士に稽古を頼むが、断られてしまう。
承、それでも主人公は何度も頼む。実際に、一人でも鍛錬を始める。
転、嵐の日にもひたむきに鍛錬する主人公を見て、兵士が根負けする。
結、稽古をつけてもらえるようになる。

いかがでしょうか。
ほんの少し文章を付け加えただけで、最初の流れよりも、兵士の心変わりの理由がわかりやすいと思います。
同時に、主人公の熱意を示す事にも繋がっているので、一石二鳥です。

いきなりシナリオとして書いた場合だと、改訂前のままでも「まぁいっか」と思ってしまいがちなものですが、こうしてまとめてあると少し冷静に見る事ができますよね。
このように、「あれっ?」と気付いて修正しやすい。
それが、流れを考える利点その1です。

 

 

◆その物語、入眠作用がありますよ
2つ目の利点は、メリハリがつく事です。
まず、前回考えたもう1つの流れを思い出してみましょう。

『主人公が兵士と仲良くなる』 流れ

起 村の周辺に凶悪な脱獄犯が隠れているという情報により、王国から小隊がやってくる。
承 しかし、その脱獄犯は一向に見つからない。
  暇を持て余した一部の兵士は村人に強く当たるようになり、対立が生まれる。
  主人公も兵士を信用せず、関わろうとはしない。
転 そんなある日、畑に向かおうとした主人公の目の前に脱獄犯が現れる。
  殺されかけたところを兵士に助けられる。
結 主人公は兵士に感謝し、仲良くなる。

この流れだと、転の部分で主人公は命の危機にさらされます。実際にシナリオを書けば、緊迫感のあるシーンになりそうですね。
起、承の時点では噂でしかなかった脱獄犯が実際に現れるという衝撃もありますから、上手く描く事ができれば、読者をハラハラさせる事ができるでしょう。
もしもこの部分について、起承転結という流れを意識しないで考えたとしたら、

1、主人公は兵士と道で出会う
2、その場で会話する。なんとなく意気投合する。
3、仲良くなる

ぐらいの流れになると思います。
別に、これが悪いわけではありません。特に事件が起きるわけでもなく、ほのぼのと仲良くなるのもいいでしょう。
しかし、物語全体を通してこんな風にだらだらしてしまっては、眠くなります。

特に、ノベルゲームにおいてはアニメや映画と違って時間の制限がないため、意識しないと単調になりやすいです。
何も起きず、何も進展せず。ただ無駄な会話が続くだけの物語では、飛びぬけた言葉選びのセンスがないと、読者を満足させる事ができません。

飛びぬけたセンスがなくても、読者を飽きさせない物語になりやすい。
それが、流れを考える利点その2です。

 

 

◆『肉じゃが』と『肉じゃがになる前のじゃがいも』
3つ目の利点は、物語を書くうえというよりも、書いた後の話です。
そもそも、物語を書いたらどうしますか?
1人で読み返して悦に入りますか? それとも、机にしまって忘れ去りますか?
それもまた1つの楽しみ方だとは思いますが……やはり、他人に見せたい方が多いと思います。

しかし、その見せ方が問題なのです。
たとえば、以下の流れ。

『主人公が、兵士から稽古をつけてもらうようになる』流れ
起、主人公は兵士に稽古を頼むが、断られてしまう。
承、それでも主人公は何度も頼む。実際に、一人でも鍛錬を始める。

誰かから、ここまでの物語を見せられたとしたらどうですか?
感想を求められて、貴方は満足に答える事ができるでしょうか?
それは、難しいですよね。
だって、中途半端な状態なのですから。

これでは、火が通っただけのじゃがいもを渡されて、「この肉じゃがおいしい?」と訊かれるようなものです。
その場合、素材の美味しさを言う事はできても、『肉じゃが』という料理としての感想は何も言えませんよね。
すべての素材が出揃い、味付けを済ませた状態で食べて、ようやく『肉じゃが』の感想を伝える事ができます。
他人に物語を見せる時も同じです。

結まで描く事ができていない物語では、完全な感想を得る事はできないのです。
とはいえ、数十時間かけなければ読めないような長編の場合、すべてを書き終えるまで他人に見せないというのはなかなか疲れます。それに、冷静な目線が足りずに独りよがりな物語になってしまう場合もあります。
そこで、この小さな流れの出番です。

主人公が、兵士から稽古をつけてもらうようになる。
そんなものは、物語全体から見たら些細な流れです。
けれど。結まで書ききってあるのなら、その流れが良いのか悪いのか、という感想はもらう事ができます。

他人から客観的な感想をもらいたい時に、部分部分を抜き出して見てもらう事ができる。
それが、3つ目の利点です。

 

 

◆作りたいのは連作ですか?
さて。利点ばかり言うのも胡散臭いので、ここで注意点も書いておきましょう。
流れを考えるのは大事です。
しかし、小さな流ればかりを追いすぎてしまうのはいけません。
あくまでも、大きな起承転結の中にある、小さな起承転結だという事を意識しなければならないのです。

たとえとして、勇者と魔王の物語に戻って考えてみましょう。
主人公は、兵士に稽古をつけてもらって鍛錬を続けます。
続けます。とにかく続けます。ひたすら続けます。
毎日毎日、ほんの少しだけ違う事が起こります。
新しい技を覚えたり、兵士と絆を深めたりするかもしれません。

けれど、このまま魔物が村に攻めてこなかったらどうでしょう? ただただ、平和な日々が続く物語になったとしたら?
それでは、最初に描きたかった「勇者と魔王の物語」ではなくなってしまいますよね。
日常ものや短編の連作を描きたいのならば別ですが、そうでないとしたら、それぞれの小さな流れを繰り返す毎に進んでいかなければなりません。

小さな起承転結の流れを意識しつつも、大元の起承転結の流れも忘れないようにする。
その事は、常に意識しておく必要があります。

では、利点と注意点がわかったところで、次回はこの「小さな流れ」にもう少し別のものを書き加えていきたいと思います。

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